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ライオンの洗剤

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日曜研究家串間努

第11回「台所洗剤」の巻



 ──昔は、野菜は台所洗剤で洗っていた。といったら若い読者はオドロクだろうか。

 昭和31年夏、ライオンが「ライポンF」という台所洗剤を発売した。
 粉状のもので、洗い桶に所定の量を入れて洗剤液を作って使用するものだった。
 それまで、洗剤といえば、洗濯洗剤であり、石鹸から分かれて、特化した住居用洗剤としては、洗濯用しかなかったのであった。花王の「粉せんたく」が昭和28年に改名した「ワンダフル」が台所洗剤としても使われていたが、食器や野菜をこれで洗うのには心理的な抵抗があった。

マイペット しかし、昭和30年代に入って、以下のような理由で台所洗剤が台頭していく土壌がむくむくと出てきていた。
 戦後の日本は、衣食住の順番が、食、衣、住という順番で優先されてきたといわれる。食糧を増産することがまず第一ということで、害虫の被害から農作物を守るため、かなりの農薬が使用されてきた。単位面積あたりではアメリカの7倍もの量が使われていたという。農薬の残留問題があるままに昭和30年代に突入し、し尿の肥料を使用したための回虫(寄生虫)付着問題とともに野菜を洗浄する必要性が高まっていた。また、ちょうどそのころから食生活が欧米化し、野菜サラダを食べる習慣もでてきた。昭和31年から36年までのあいだにカリフラワーは5倍、ピーマン、レタスは3倍に、それぞれ消費量が増えているほどだ。欧米化した食生活は油脂使用量も上げ、皿に付着する油を落とす必要性も高まる。戦前は、油脂汚れはかまどの灰や、みがき砂で落としていた。米ぬかやうどんの茹で汁で洗浄したりしていた。クレンザーや粉石鹸を使うのはハイクラスな家庭に限られていた。たとえば上流階級ではカットグラスなどは海綿に粉石鹸をつけてあらっていたという。というか、むしろ戦前は食器は「洗わない」ものであったという認識だったそうだ。
 食器は個人の所有物であったが、レストランや食堂が戦後広まり、食器を他者と共用で使うという習慣も根づいていた。

ミツワプラスZ そのような背景があり、昭和31年に厚生省は各都道府県に「野菜と食器は台所用洗剤で洗浄して食品衛生の向上をはかりなさい」という通達を出した。後に「水質汚濁問題」を引き起こすことになるのだが、当時は、寄生虫や手指の汚れを防止して清潔に保つためが優先されたのだ。土壌の汚染問題、有リン問題なども出、のちに有吉佐和子は「複合汚染」という小説を書いている。
 アルカリが入っているとビタミンを損なうと考えられ、台所洗剤は中性洗剤となった。昭和48年には、もう有害な農薬は使われていないから、野菜は水道水で洗うだけでいいですよということになったが、習慣とは根づくもので、いまだに中性洗剤でレタスやキャベツを洗うお母さんがいる。

ワンダフルK ライオンと花王は日本の清浄文化において、良きライバルである。かたほうがいいモノをだせば相手に負けじと、それと同等以上の商品を開発してぶつけてきた。ライオンがライポンをだしたあと、花王は昭和33年秋に粉から液体に代えた「ワンダフルK」を出して、トップブランドを奪還した。翌年、ライポンFも液体を出す。昭和30年代後半になると、スポンジに直接台所洗剤を付けて、流水で流す習慣がついてきたので(井戸から水道に変わっていったこともあるだろう)昭和37年になると手荒れ問題が主婦の間で発生した。そのため「手にやさしい」が台所洗剤界でのキャッチフレーズとなる。昭和40年には花王が手を守り(手荒れ防止剤配合)、無色である「ファミリー」を発売し、これがトップブランドになる。そこでライオンはどうしたか。やはり、手を荒らさないということをコンセプトに研究を重ね、なんとか「ライポン」と並ぶブランドを作ろうとした。そして、昭和41年に、レモンブームにのって「ママレモン」を発売したのだ。これはねっとりとしたローションタイプで、レモン色の半透明タイプのもの。香りがよく、2年後にはトップブランドをまた奪還する商品に育った。このころの容器は缶からプラスチックに変わっており、キャップは現在と違ってスライド式ではなく、はさみで先端をちょん切るものであった。
 花王はあせった。そこで「ウチもレモンだ」と、昭和44年に「ホームレモン」を発売したが、失敗。そこで、既存の「ファミリー」を改良して新イメージをつけたがまたまた失敗。ローションタイプは昭和47年のピンク色の「チェリーナ」で初めて「ファミリー」の売上を抜くヒットになったのであった。

マスマスの洗剤

 油汚れをとる力(脱脂力)が大きいと、手荒れの原因になると一般に考えられていたが、この仮説だと、手荒れを防ぐには洗浄力を犠牲にしなくてはならない、つまり、洗浄力が強くて手に優しい洗剤はできないということになる。しかし、研究が進んだ結果、手荒れの原因は界面活性剤と皮膚の関係にあることが突き止められ、皮膚タンパクにマイルドな界面活性剤を使った洗剤が開発されることになった。
 そこで、昭和50年代になると、この研究をもとにいままでよりもっと手に優しい台所洗剤として、ライオン「ママローヤル」(54年)が発売された。21世紀を見据えた、透明なペットボトルでちょっと高価格だった。しかし設備増強をするほどの大ヒット。これに対して花王「ルナマイルド」(55年)で対抗。その安価版の花王「ファミリーフレッシュ」(56年)に対してライオン「チャーミーグリーン」(57年)が発売された。ワンダフルK

書きおろし


2003年11月14日更新
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