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第26回
「戦後の教室の風景」の巻 |
みなさんは、自分が学んだ小学校の教室の様子をいまでもありありと思い起こすことができるだろうか。
ここでは、教室にあったもの、たとえば黒板や机などの教具や、くずかごやストーブなどの備品を教材や学用品も含めて『学校文化財』と呼ぶことにしよう。
戦後の学校文化財が教室にそろえてある風景の基本は、『昭和25年度 小学校保健計画実施要領(試案)』によって次のような文部省の方針があったことがわかる。この実施要領の本文を借りながら教室の風景を描くことにして、「教室」にかかわる歴史的基本知識を得て行きたい。
・机・腰掛は児童の身体に正しく適合するものでなければならない。したがって、一教室に備え付ける机、腰掛はすくなくとも大、中、小三種類の寸法のもので編成する必要がある。机・腰掛は、堅固な構造で、つやのない落ち着いた色の塗装を施し、机の平面は手ざわりのなめらかな堅木を用い、腰掛座面にはすわったときの上たい(上腿)面に適合した曲面をもたせる。
・黒板は暗緑色または黒色のつや消し塗料を施したもので、すべての児童から見やすい位置と大きさにする。黒板の自墨みぞや黒板ふきは,毎日きれいにそうじしなければならない。
・掲示や児童の作品展示などに用いる掲示板は,テックス類(せんい板)か、やわらかい木質の板を用い適宜移動して張り付けられるようにすれば簡便である。
・教室があれば,その教室備え付けの机に児童所持品を入れることができ、教室内の適当な場所に所持品入れの小戸だなを設けることもできる。各組児童に個有の教室がない場合は,廊下・広間・児童控え所等にロッカー(個人別小戸だな)を設けなければならない。
・教室・講堂・食堂・児童控所・広間等の壁面に、美しい絵画・写真・ポスター等を掲げ、また卓上や適当な高さの飾りだなの上などに美しい花びん・塑像等を置くことも望ましい。しかし,絵画・写真ポスター等を黒板の上や窓と窓の中間壁面に掛けてはならない。
・教室その他の室・広間・廊下・校舎外の運動場・校庭等には、要所要所に紙くず,ごみ等を捨てるふた付のかごや箱を備えつけておかなければならない。
・防寒については,室内気温が摂氏10度以下に下がった場合は暖房が望ましい。暖房の方法には,いろいろあるが、多くの場合、置ストーブに石炭またはまきをたく方法を用いているから、この際は必ず煙突を設けて、排気ガスを戸外に導かねばならない。火鉢に木炭をもやす方法は、教室では禁止すべきである。特別の場合、火鉢を用いることがあれば、換気に注意しなければならない。石炭、まき、木炭、ガスなどの燃料が燃焼するときは、炭酸ガス、じんあい等の発生のほか、身体に有毒な一酸化炭素を生ずるから、特に注意を要する。
・水飲み場は学校内の適当な位置に分散して設けなければならない。保健衛生上完全を期するため、給水は噴泉式(ファウンテン)とするのがよい。
絶えず噴水しているのは水の不経済であるから、水せんを設け、それは手で回す水せんでなく、足で踏むと水の出る装置にするのが理想的である。かつ噴水口は、上方に露出しないで,斜めに水の出るしかけとするのがよい。
・水飲みコップ。手ぬぐい、せっけん等は、児童各自の個人用のものでなければならない。
・洗面手洗い場は、なるべく各教室ごとに作りたい。清潔な洗面器または手洗い器を取り付け、水は流水式として,新鮮な水がいつも豊富に流出する設備とする。洗面または手洗い場には大きな鏡を取り付ける。足洗い場は、運動場,教室入口附近等に設置する。足洗い場から教室にはいるところには足ふきのマットを備える。
・児童の弁当、食器類を個人別に入れる小戸だなを食堂に設けるのが望ましく、さらに冬季の弁当保温設備があれば申し分がない。
この文章から当時の理想とされた教室の形態が想像される。腰掛がなぜあんなに硬く、「児童座布団」と呼ばれるような商品が必要だったのかもわかるし、ロッカーの必要性、そしてなぜどのどの教室にも「花瓶」が置いてあったのかもわかる。家の中に「花」がない生活をしていた私にとっては教室の花というのは大変不思議な存在だった。ゴミ箱・ストーブがある理由も明記されているし、理想の水のみ場もここには描かれている。「足洗い場」というのはおそらく当時ははだしで体育をやっていたから、その足の裏を清潔にするために必要だったのではないか。あとででてくる「暖ぱん器」の必要性も書いてあり、実現できたかどうかは別にして、戦争が終わってたった五年でのこの時代で最小限、最高の児童生活がここにあるのではないだろうか。
●書き下ろし
2005年11月18日更新
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