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第16回 アルプスの屠場〜芝浦いれぶんの弟子とレインボーコネクション
刈部山本

拙著、夏の新刊は首都高を巡るということで現在高速道路を下から見上げながら都内を巡っている最中。首都高1号羽田線の品川埠頭、天王洲アイルの辺りは再開発が盛んで高層ビルばかりが目立つ臨港エリアなのだが、地図を見ると周辺とは性質を異にする建物に気づく。中央卸売市場食肉市場。食肉用の牛や豚の屠畜・セリが行われている芝浦屠場だ(公式サイト:http://www.shijou.metro.tokyo.jp/syokuniku/syokuniku_top.html)。
今年『いのちの食べかた』(公式サイト:http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/)という屠場を中心とした食が生まれる風景を淡々と描いた映画をみたことにより、口に入るものが殺生される場というものをこの目で見届けたいという義務感に襲われた。いや断ってもカニバリズム的な屠殺に性的快感を覚えるとか、食肉に携わる人間を差別的に見下すということではなく、一般にB級グルメと呼ばれる類の料理は肉食が多いので、命を摂取しているという現実をしっかと認識しておきたかったからに他ならない。幸いにして、工場見学希望者を募る方と出会うことができ、ツアーに同行させてもらった。予約をしないと情報館は入場できてもセリは見学できないからだ。

巡視詰所から入場したのだが、今ひとつ話がスムーズに通らない。後で知ることになるが、現在に至るも食肉従事者に対する偏見はなくなっておらず、誹謗中傷の手紙の類も頻繁に送られ、また動物愛護団体の見学者もいるという。非常に警戒された状態で案内が始まった。
まずセリ場を斜め上から見下ろすように設置された見学スペースに案内された。室内は結構寒い。左ガラス面からは解体された豚の枝肉(半身の状態)がズラリと吊り下げられている様子が窺える。枝肉は冷蔵されているのでこの部屋も寒いようだ。ガラス面が曇り、露を払わないとよく見えない。それに枝肉は撮影禁止とのことで、見学としてはセリ場しか撮影できなかった。

セリ場俯瞰

講堂の長テーブルのようなところに中卸業者・売買参加者が着き、手元のボタンで入札していく。事前に枝肉をチェックし、番号を控えたところでセリに参加。掲示板に豚肉の情報が掲げられると、何人が入札しているか色毎に分かれて表示。値段が上がり一人になったところで落札となる。この間わずか数秒。続々と淡々とセリが進行する。

セリ場掲示

結局屠畜の現場は見学できず、これっきりの不自由な見学となったわけだが、このあと30分ほどのビデオを見て、そのわけが納得できた。昨今のBSE問題もあり、衛生面での管理が徹底される現場。従業員は専用の作業服を纏い殺菌処理をしてからの作業となる。見学者にいちいちそれを強いてはいられない。部外者が追いそれと立ち入れる場所ではないのだ。
それにしてもこのビデオ、かなり容赦なく屠畜の様子を映していて、大人でも十分刺激的な内容だが、小学生にも見せるようようで、正直心配になってしまう。しかしそこで目を覆うよりも、自分が普段食べているものをしっかり認識すべきで、全くもって正解だろう。ある意味学校側としては英断かもしれないが、その決意には敬服する。
最後は情報館で屠場の歴史や差別についての展示を見た。解体された牛の皮は牛革となるがその実物展示や、枝肉の模型もあった。先に撮影できなかったところは、こういうのがズラリと吊るされているのだと想像いただきたい。

枝肉

牛革

誹謗中傷の手紙

この地に屠場が出来たのは昭和11年のことで、昭和41年に中央卸売市場食肉市場として開業した頃の写真も展示されていた。周囲には何もなく、まさか現在のような開発がされるとは思っても見なかったので開業に乗り切ったとのこと。屠場移転の議論もあるようだが、元はこっちが先立ったのだ。

屠場写真

正直、相当の覚悟で臨んだので肩透かしな感は否めなかったが、情報館の図書棚にもあった内澤旬子『世界屠畜紀行』に詳細なレポがあるので参照されたい。心機一転、自分もいつしか屠畜の現場をこの目に焼き付けようと心に誓い、芝浦屠場を後にした。

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「世界屠畜紀行」
内澤旬子(著)
解放出版社
978-4759251333
税込価格2,310円

この後メンバーは水産資料館見学のため東京海洋大学へ。当方首都高取材が詰っていたので大学正門前で離脱。ここからスグの羽田線下、海岸通りへ出ると、殺伐とした幹線道路の景色の中に、倉庫街ならではの作業員相手の弁当屋や立ち食い蕎麦やが目を引く。その一角にラーメンフリークなら避けて通れない穴場的名店イレブンフーズ出身のアルプスラーメンが現れた。

アルプス・ゆで太郎並び

アルプスといっても山の頂のようなデカ盛りのラーメンではなく、店主が信州出身だかららしい。アルプスでも日本アルプスかい!
店内は真新しさが漂う明るい雰囲気。本家イレブンは卸業者の倉庫のような、凡そラーメン屋とは思えない佇まいで、なにやら細かな浮遊物の浮いたスープ、特大トロトロ煮豚、自己申告会計で自分でザルから取っていく釣銭、そしてなんといっても厨房に鎮座する洗濯機の脱水槽から出てくるキクラゲ! しかしこの日本アルプスは登頂しても洗濯機は発見できなかった。しかし店内を覆う鼻を突く怪しげな臭いは間違いなくイレブンのそれだ。

アルプスラーメン

アルプスラーメン¥750はスープが大分白濁しており、ちとチープな感は拭えなかったが、啜ってみると豚骨なんだか野菜ダシが多いようなよくわからない、ちょっと酸味があるようで混沌としている味は確かに本家ゆずりで驚かされる。
麺はやや細めながらも適度なもっちり感を残し食べやすい。麺とスープと豚と玉ネギのコンビネーションは素晴らしい。豚は赤身が多くトロトロで厚みもあって見事な食べ応え。これ食っちゃうと値段が気にならなくなってしまう。
屠場の見学の後とあって、ありがたく、完食させていただいた。このロケには必要な店でしょ。
アルプスラーメン外観

アルプスラーメン
11:00〜16:00
定休;日曜・日曜前後の祝日
港区港南4-7-46
※時間等変更の場合があります

大満足のまま店を後にし、海岸通を北上する。ワールドシティタワーズを遠景に、羽田線を頭上に併走する東京モノレールを見ながら、港南大橋辺りでは最上部を貨物船が跨ぐという実にダイナミックな光景が拝める。

五色橋界隈

五色橋界隈UP

五色橋を渡り芝浦埠頭に入るといよいよレインボーブリッジのお目見え。今日はこれを徒歩で渡るのだ。レインボーブリッジ名物のループレーンは直径250mはあろうか。間近で見るとかなりデカくて、カメラのフレームに収まりきらない。

ループレーン

レインボーブリッジは2層構造になっており、上部が首都高台場線で下部が一般道とゆりかもめが共有している。上部の首都高はループしないので、橋を支えるアンカレイジの辺りで下部と上部が折り重なる。手前に宇部三菱セメントという工場があり、高架道路の絶妙なコントラストを生み出している。

宇部三菱セメント

宇部三菱セメントライン

橋自体はトラス吊橋という構造で、下部と上部の床版の間が三角形のトラス構図となっているが、吊橋というからには橋全体は吊っているわけで、海上に起立する2つの主塔に張られたメインケーブルが芝浦・台場側それぞれのアンカレイジと呼ばれる側塔で引っ張っている(詳細はレインボーブリッジHPhttp://www.shutoko.jp/service/spot/rainbowbridge/rainbow5.htmlに詳しい)。この芝浦側のアンカレイジが歩行者の入場口。エレベーターで最上階に着くと、さすが地上20m超。

橋上から見下ろす

ビュービュー吹き荒れる海風を全身にモロに受け、しかも橋だから揺れるので真っ直ぐ立っていられない。トラスの隙間から見る湾岸の景色は高さをさらに助長させ、真横を通り過ぎる自動車の風と振動に煽られ、絶叫寸前。こ、怖ぇぇぇ!!!

下部道路から外

下部道路風景

途中展望目的か手すりが低い位置があり怖くて通りたくなかったが、陸からアクセスできない第6台場を見下ろすことができたのは収穫だった。鬱蒼と茂る緑はまるでそこだけ江戸期から取り残されたようだった。

第6台場

台場側

台場アンカレイジを過ぎれば橋自体は終わり後は台場へと緩やかに下っていくだけなので、気持ち的に大分楽になった。慣れというのもあろうが、この状況下、ジョギングをする人とすれ違った。まったく恐れ入る。

お台場海浜公園の砂浜を歩きながら、目の前のフジテレビなどの観光スポットを眺めていると、橋一つほんの1kmちょっとしか離れていないのに感じる壮絶なギャップには本当に驚かされる。倉庫街なんて確かに日常の生活圏の風景ではない。しかし我々の生活を支えている現場である。まさに現場で起こっているんだ!<これがいいたかっただけか? いや本当に、それは屠場も同じ。日常なくては成立しないことに従事する人間がいて、それによって毎日メシ食ったりできてるわけで。差別どころか最もリスペクトしなきゃならんのにね・・・そんな思いに駆られる1日だった。



刈部山本

刈部山本(かりべ・やまもと)とは・・・
ラーメンなどのB級グルメを主食とし赤線跡・軍事遺跡・レトロ建築等を巡る路地裏徘徊人。
東京の下町、谷根千の路地裏に潜む古本喫茶を自営。レトロ少女マンガ・サブカル・町歩き等の古本・ミニコミが揃う空間で最高品質の珈琲と自家製ケーキを持て成す。
ふるほん結構人ミルクホールHP http://kekkojin.heya.jp/




2008年 7月 日更新
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