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「第二小学校」タイトル

第28回
最近見ないな
「百葉箱」と「焼却炉」の巻
日曜研究家串間努

「百葉箱」

 歴史が古い街を歩いていると古い医院の建物にお眼にかかることがある。白いペンキをよろい戸に塗った有様は、まるで学校の庭に建っていた百葉箱のようだ。気象観察のために箱のなかには気温、気圧、湿度を量る計器が収められていた。あまり中をみたことはないが、なんとなく児童が触ってはいけないブラックボックスのようなものだった。なぜ百葉箱というのか。百はたくさんを意味し、たくさんの板を使用しているからという説があるがそうではあるまい。小学館の漢和辞典では百葉とは「八重の花びら、牛や羊の胃のこと」とある。百葉箱の外観はよろい戸になっているので、これがヒダが多い牛の胃の形に似ているからだろう。しかし命名したひとはすごい比喩を持ち出してきたものだな。ところで百葉箱を最近お見かけしないのはなぜなんだろう。

「百葉箱」
「百葉箱」
「百葉箱」

 最近、道を歩いていると、タバコの火がついたまま捨てられていることがある。実際に若い男が燃えているタバコを路上に落とし、靴で踏み付けもせずに立ち去った場面を何度もみている。そのたびに私は「火事になっちゃうよ」と煙を消さずにはいられない。いったいどうしてこんな所業ができるのか。思うに若い世代は子どものころに家のなかに裸の火がなかったのだろう。仏壇の御灯明もなく、暖房もエアコンで、七輪や豆炭行火は知らないで育った彼らは、もしかしたら火が熱くてキケンということを実感できないのではないか。そして何より外で「火遊び」をしてない世代なのだ。
 冬の子ども遊びに「焚き火」があった。サツマイモを蒸して焼きいもを作ったりもしたが、実はこれはあまりうまいものではない(焼き芋屋さんで買うほうがよい)。私たちの遊びグループでは、ビー玉を焼いていた。お寺の境内でビー玉を焚き火で熱し、頃合いを見て手水鉢に放り込むと、温度差で「ジュ」という音を立ててビー玉内部にヒビが入るのだ。それを「柄ビー」と称して珍重していた。柄ビーはキレイだったが、実際に遊ぶときにはすぐに割れてしまう危険なシロモノであった。
 ビー玉を埋め、焚き火の燃え盛る火をじっと見ていると、魅入られたようになり、ボーッと意識が遠くに飛んでいきそうになるときがあった。環境ホルモンのことなど何も知らない時期であったから、おそらくダイオキシンたっぷりの煙を吸いながら、メラメラと踊る焔を凝視していた。子どもながらにも、そんな朦朧状態がなんとなくいけないことだということを感じていて、意識を正常に取り戻しながら、落ち葉を足して火勢を盛り上げていたが、そんな焚き火でトリップ体験、みなさんにもないでしょうか。
 火に関することは子どもの世界でも特別な存在で、理科のアルコールランプを使った実験や、夏の花火遊びもワクワクする出来事だった。
 とにかく学校でマッチや火を扱えるヤツは子ども世界でのステータスであり、冬にクラス内に設置される石油ストーブに火を付ける係には人気が殺到したものだった。また、焼却炉当番というのが七〇年代の小学校にはあった。
 学校清潔方法(昭和23年4月14日文部省訓令第2号)では次にように学校ごみについて指導している。
 (8) ちり,あくたの類は,ごみ箱又は一定の場所にあなを掘り,その中に集めておき,しばしば焼き又は適当の場所に搬送しなければならない。
 また、昭和25年度 小学校保健計画実施要領(試案)によれば次のような文部省の方針があったことがわかる。
 七)ごみの処理と設備
 ごみは大別して雑かい(不燃雑かいと可燃雑かいとに分かれる),台所じんかいの二種があり,それぞれ衛生的なふた付ごみ箱に集められたものを,市町村営,または会社営等によって,搬出処理されるのが普通であるが,学校内にごみ焼き炉を設けて焼却することもできる。ごみ焼き炉は特にその設置場所に注意し,学校内で一日に排出されるごみの量を一回に焼き捨てることができる大きさとすれば手数が省ける。
 校内の落葉,枯れ枝等は別に焼却して学校農園の加里質肥料とし,またつみごえともなろう。台所の廃物は,学校の農業科で飼育するぶたの飼料や,農業実習地のつみごえ原料とならないこともないが,これは衛生上その取り扱いに特に注意を要する。
 校舎内のそうじには,ほうき,はたき,床ふき用柄付ぞうきん,机上等をふくぞうきん,ガラスふきの布片,バケツ,ちり取り等と備えて,校舎の諸所にそれらのそうじ用具入れ場を設ける。

 だが実際に小規模な焼却炉が都市の学校に設置されはじめるのは昭和三十六年ころからだ。それまでは校庭の片隅で焼いたり、穴を掘って埋めていたが、火災予防の見地や衛生面の問題から、焼却炉が設置されていった。そしてダイオキシン対策のため一九九七年で原則廃止という指導が文部省からでるまで存続していたのだ(「子供を持つ親たちの心配に早くこたえたい」ため(町村信孝文相))。
 校庭の片隅にあった年代物の鉄でできたカマは、蒸気機関車の男らしさを思わせた。毎日選ばれた当番なり、焼却炉係なりがフタを開く係とゴミを入れる係の二人一組になって、低学年が持ってくるゴミ箱の中身を燃やした。最後に灰のなかに残った鉛筆の長い芯は焼却炉係のものにできる特権だった。もはや校庭の片隅から白い煙が棚引かなくなって久しい。

書き下ろし


2006年1月25日更新
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