その46
濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
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「紹介したいなぁ」と思いながらも、時間が経ち過ぎてしまったのは、私にとってマニアック過ぎるから。目次を眺めながら考え込んでいました。だって、徳川夢声をはじめ滝沢修、古川緑波、三國一朗、宮口精二、内田朝雄、山本麟一、高橋豊子、秋月正夫などなど、約70名の俳優の名前が並んでいるのです。タイトルは『脇役本』。濱田研吾さんが自費出版したミニコミ誌です(その19 へんてこケロちゃんの巻 参照)。
彼がいうところの『脇役本』とは、舞台、映画、ラジオ、テレビで脇役として活躍した俳優の関係書のことで、当然濱田さんが好きな俳優であり、古本値が1冊5000円以上する方々を紹介しています。灰色の渋い表紙をめくると、オロナイン軟膏のホーロー看板でおなじみの浪花千栄子さんの似顔絵が貼ってありました。彼女の箇所を読んでみると、看板から伝わってくる穏やかで優しい微笑みとは裏腹に、苦労した幼少時代と孤独で強い精神が伺い知れ、「私はパリと仲の良い友達になろうと思いました」なんて、パリでの生活をエッセイに書いた高橋豊子さんの本はぜひとも読んでみたいと思ったし、殿山泰司さんの書かれた『日本女地図 自然は、肉体にどんな影響を与えるか』では、濱田さんの反応がおもしろく、殿山さん曰く、私の故郷鳥取の女は浮世絵を連想させるそうで、早速会社の男性に「私、浮世絵を連想させるかな?」と聞いてみたら、「いえ、ぜんぜん連想しません」という返事が返ってきました。
宮口精二さんの箇所も興味深く読みました。『俳優館』というミニコミ誌を自費でつくっていたとか(それも家計をきりつめて赤字で)。『俳優館』とは、さまざまなジャンルの俳優が、心ゆくまで語り合うアパートのような総合演劇雑誌ということで、寄稿者はノーギャラ。宮口さんは本ができると「あぁ、おもしろい」と声をだして喜んだそうです。なんだか、おもしろそうなミニコミ誌ですね。私も読んでみたくなりました。
『脇役本』を手にした時は、俳優にうとくて顔と名前が一致しない私に理解?できるかどうか不安だったのですが、読み進むうちにそれぞれの方の意外な一面や生き様に感心し、興味を持ちました。定価は500円で限定100部。しかも、すでに品切れ状態。いまさら紹介しても入手もできないとなると、ますますどうしていいものか‥‥そんな思いを持っていた矢先、濱田さんからの手紙の中に、世田谷美術館で知人の知人こと水津保美さんという、津和野生まれの方が個展をするという話が書いてありました。同封されていた案内には「伯耆富士」とも呼ばれる美しい山、「大山(だいせん)」が版画で描いてあります。
大山とは鳥取県にある山で、先にも書きましたが私にとっては故郷の山ですから、思い入れは深く、幼少を過ごした部屋には、いまだに日の出時の大山の写真が飾ってあるほど大好きな山です(今住んでいる部屋にも飾ってあるし)。帰省した時に大山がくっきりと見えると褒められたような気になるし、逆に大山が見えないと叱られているような気がして、大山を通して一喜一憂すること数知れず。母なる大地ではありませんが、母のような友人のような大切な山なのです。そもそも山陰というか日本海側は天候が変わりやすいので、大山に会えるかどうかは「運」という感じです。
「大山の版画…私も見たいなぁ」
そう思い濱田さんに電話をしたところ、お互いの都合が合い、一緒に世田谷美術館に行くことになりました。東急田園都市線・用賀駅から徒歩15分。閑静な住宅街の中にある美術館には、大山と宍道湖がありました。残念ながら故郷のものは2点のみでしたが、何色もの色、それも思いもよらない意外な色を重ねて立体的な景色が描いてあり、特に宍道湖の夕焼けは、風と水の音が今にも聞こえてきそうで、夏が終わる季節を思い、涙がでそうになりました。
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ひさしぶりに会う濱田さんは、2年前に会った時に比べて少しやせていました。とりとめのない近況の話をしながら、楽しいひとときを過ごしたのですが、普通の話?をすればするほど、濱田さんの奥深さというか、『脇役本』の濃さといいますか、すごさを感じます。185ページで文字がギッチリ。晶文社から書籍をだしたと思ったら(その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編 参照)、これだけのミニコミ誌を予告なしにつくってしまうのです。限定100部はもったいないなぁ。きちんとした?書籍になればいいのに。できれば、それぞれの顔写真と脇役本たちの書影入りで(濱田さん持っているし)。そんな思いから、あえて品切れであるにもかかわらず、紹介することにした次第。
思うに『脇役本』やほかの著書を読んでも、濱田さんが描く俳優や作家の似顔絵を見ても、彼には独特の目線というか感性があると昔から思っている私は、帰りの電車で横に座っている濱田さんの目線に、上司にでも見られるような気がして緊張したりして。だって濱田さんとは逆に、私は2年間で7キロも太ってしまったのですから…。驚いただろうなぁ。ひさしぶりに会う人、みんなにいわれるもん。はぁ〜。
余談はさておき、今回は故郷の山である大山にちなんで、富士山の形をした貯金箱を紹介します。戦時中につくられたモノです。「堅忍特久」、「勤倹貯蓄」、「我等の一銭御國の力」、「横濱市國民精神總動員」という文字が右横書きで書かれた陶器製で、底には和紙が貼ってあります。当時はさまざまなデザインの貯金箱がつくられていたのです。
そして最後に、少しだけ古い大山の絵葉書を紹介します。日野川や皆生温泉から眺める大山です。伯耆富士と呼ばれるのも納得でしょ? 美しい山なのです。
2005年6月14日更新
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