その22−ノミ
気のせいか、身体がかゆくなってきたって?
気のせいなんかじゃありません。
あなたが今いるその辺り、ノミを放し飼いしていますから。
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ノミは哺乳類の血を吸う嫌われ者だし、
最近はめっきり減ってしまったので、観察する機会が減った。
それでも野良化したイヌやネコについたこの虫を採取して
ルーペで観察してみると、ノミには羽がないことがわかる。
昆虫なのに羽がないとは変わっているが、
恒温動物の皮膚にくっついて血を吸う分には必要ないので退化した。
それでは一生同じ動物にくっついているのかというとそうではない。
3対ある脚の後脚が発達していて、大ジャンプをすることができる。
そのジャンプたるや、体長の約200倍の距離をひと跳びできるのだ。
身長170cmの人間に直せば、340mの幅跳びができる計算になる。
昆虫界、いや生物界屈指のジャンパーであろう。
このジャンプ力で近づいた獲物に跳びつくのである。
脚力のあるノミに曲芸をしこんだのが、
外国の漫画なんかでよく見る蚤(のみ)のサーカスである。
冗談のようだが、この大道芸は実在する。
飼い慣らしたノミにいろんな格好をさせて、
ミニチュアの馬車を引かせたり、バーを跳び越させたりする。
昆虫が芸をおこなうのというのも驚きだが、
餌さえたっぷりもらえるなら人を喜ばせるのも悪くない、
とノミなりにちゃんと考えているのかもしれない。
餌はサーカスの団長が自分の腕から供給してくれるだろうし、
同じ味に飽きたら、観客の懐にジャンプ一番跳びこめばよい。
大切に育ててくれるうえに、
食いあぶれる心配がないのだからノミにとっては天国なのかも。
蚤のサーカスよりもなじみが深いのが蚤の市だろう。
いまや日本各地で見かけるようになったフリマの元祖で、
語源はフランスのパリ郊外で開かれる中古品の露天市のこと。
フリーマーケットのフリーはfleaであり、fleaはノミを指す。
ちなみによく間違えられるfree marketは自由市場、
自由競争によって価格が決まる市場という意味の経済用語である。
ともあれ、古物市がなぜ蚤の市と呼ばれるようになったのだろう?
売り物の古着にノミがたかっているさまを想像すると滅入るが、
衣服に産卵するのはノミではなくシラミである(その13参照)。
事実は小さな露天がごちゃごちゃしている状態を蚤と称したとか。
いずれにしろノミたちにとっては、
人が密集する蚤の市は獲物を選び放題で極楽だったに違いない。
蚤がことさら恐れられたのは、この虫がペストを広めたからだ。
シラミと違ってノミは相手を選ばず、
いろんな哺乳類の血を吸って生きることができる。
保菌者であるネズミをかんだ後人間をかんで、ペストを媒介した。
人畜共通の感染症はペストに限らずノミによって広められる道理。
恐れた人間は大量の蚤取粉でノミを駆逐していったのである。
だがしかし、
蚤がいなくなったからといって感染症がなくなったわけではない。
狂犬病や日本脳炎などはずいぶん減ったが、
AIDSやらSARSやらエボラ出血熱やら鳥インフルエンザやら
動物由来の感染症が次々と出ては猛威をふるっているのが証拠。
人間など所詮、微生物にかなうはずがないのだ。
心配しすぎる人を、蚤の心臓という。
どうせ限られた命なのだ。
蚤のサーカスの団長のように、
自らの腕を差し出すくらいの気概が欲しい。
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【ノミ】
ノミ目に属する昆虫で、成虫はすべて哺乳類か鳥類に寄生し、吸血
する。ヒトノミ、イヌノミ、ネコノミなどいろいろな種類がいるが、
名前にかかわらずいろいろな動物に寄生する。
ノミの写真は、「ANTIMED」の藤田さまよりお借りしました。
「蟲ギャラリー」
http://dark.s3.xrea.com/parasite/parasite.html
「ANTIMED」
http://dark.s3.xrea.com/
2004年5月28日更新
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