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「蕩尽日録」タイトル

10月某日 逗子カラ鎌倉マデ
古本マミレノ小旅行ヲスル事
 

南陀楼綾繁



 今年は台風が連続してやってきたため、せっかくの休みも外に出られない日が多かった。今日は快晴、とは云えないまでも、少し陽が差している。この機会のがすべからじ、と旬公を誘って電車に乗った。めざすは逗子である。夏でもないのにワザワザ湘南までやってきたのは、理由がある。そして、読者諸兄がとっくにご賢察の通り、それは「本がらみ」に決まっている。逗子開成学園の文化祭で、古本市をやっているという情報を得たのだ。

開成学園の文化祭

 開成学園にはいささかご縁がある。といっても、自分が通っているとか子ども(いないけど)を通わせているというのではナイよ。ぼくのウチ(賃貸マンション)が西日暮里の開成学園のすぐ隣で、ベランダから学園がよく見えるというだけのハナシ。引っ越してきて以来、9月に行なわれるココの文化祭には顔を出し、古本市で買いまくっているという「ご縁」なのである。逗子開成といえばその兄弟校だ。

 駅から古い商店街を抜けて、10分ほど歩くと校舎に到着。すでに、大勢の生徒・父兄が集まり、盛り上がっている様子。偏差値の高い遺伝子をゲットしようと鵜の目鷹の目の、女子ハンターもウロついている。われわれは他の催しには目もくれず、一階の教室でやっている古本市に突進。西日暮里の開成ほど量はないが、10コほどのカラーボックスに詰め込まれた本には面白いものが多い。文庫は50円、単行本100円、新書は80円と激安だ。橋本治『とうに涅槃をすぎて』(徳間文庫)、都筑道夫『七十五羽の烏』(角川文庫)、河原淳『イラスト入門』(カラーブックス)など、本を持ってきた生徒の両親や、先生の世代の読書傾向が、モロに反映されている。伊藤つかさの『見つめていてね 夕暮れひとりぼっち』(ワニブックス)なんて本もあった。中学生のときにファーストアルバムを聴いたよなあと思いつつ、コレも抱え込む。見逃しがないか気をつけて、何度か巡回し、両手に持ちきれないほど(文庫15冊、単行本5冊、新書1冊)買う。コレだけ買って、たった1400円! 売上はユニセフに寄付されるという。

逗子開成

 二人で20冊以上買ったので、先生らしきヒトが目を丸くして、「古本屋さんですか?」と聞いてくる。旬公は「趣味です」と答えていた。すでに趣味の範囲を超えてるかも……。いきなり紙袋いっぱいの本を持って、次の目的地へ。駅前からバスに乗って、長柄交差点というバス停で降りるはずが、海岸回りと山手回りを間違えて乗ったらしく、森戸海岸のほうへ走っていく。慌てて降りる。腹も減ったし、すぐ近くに〈魚佐〉という魚料理の店があるのでそこに行こうというコトに。12時前なのにナカは満員、外で待っている人もいた。すぐ開くかなと思い外で待つが、30分近く待たされる。やっと入り、ぼくは海老丼、旬公は刺身丼。単品でも頼めるので、マグロの唐揚げも追加、そして、ええーい、ビールも追加。どの料理もびっくりするほど量が多く、ウマイ。すっかり満腹になった。

海老丼

 そこから歩きとバスで、長柄交差点近くの〈haco〉というカフェへ。二階建てで、一階では手づくりのブックカバーや小冊子の展示をやっている。上がカフェコーナー。大阪の貸本喫茶〈ちょうちょぼっこ〉による古本市が開催中だ。きれいな表紙の本が多いが、ぼくの目は床に積まれた雑誌群へ。チャイを飲みながら、昔の週刊誌などを眺める。堀内誠一が絵を描いている『こぶたのまーち』(福音館)と、委託で置いてあったミニコミ『四月と十月』2冊と、その主宰者の牧野伊佐夫さんのスケッチ集『湘南之商店街』を買う。店の男性とちょっと話すが、この先、本に関する展示・イベントをやっていきたいと、熱心だった。

鎌倉カフェ

 まだ時間があるので、鎌倉駅で降りて、〈芸林荘〉で均一本を2冊、〈木犀堂〉で均一本を1冊買う。小町通りの途中に、「ブックカフェ」とあるのを見つけ、入ってみる。ビルの三階にある〈遊吟舎〉という店。つまんなそうなら入るのヤメようと思ったが、外から覗くと本棚がたくさん見えたので、引き込まれるようにナカへ。その結果は……いやー、スバらしい。哲学、文学、芸術などの本がよく揃っている。それも古本屋さんの並べ方とはちょっと違っていて、ある蔵書家の本棚をそっくり持ってきたようなカンジなのだ。たとえば、山本初太郎『実録 文藝春秋時代』(原書房)の第1巻だけがある。この本、ぼくは2巻目だけを持っているので、ちょうどイイ。山村正夫『推理文壇戦後史』第1巻(双葉文庫)、テリイ・サザーン『キャンディ』(角川文庫)など、ちゃんと値付けされてしまえば手が出にくい文庫も各200円と安い。単行本2冊、文庫本4冊を買う。店の女性に聞くと、昨年秋にできたという。知らなかった。また来よう。

 そこを出て、踏み切り脇の〈游古洞〉で1冊買い、目録での通信販売が中心なのでいままで入ったコトのなかった〈四季書房〉にも勇気を奮って入り、馬屋原成男『日本文芸発禁史』(創元社、昭和27)と新田潤『わが青春の仲間たち』(新生社)を買う。もうコレ以上は両手に持ちきれない。あと〈公文堂書店〉に行けば鎌倉の古本屋は制覇だが、今日はこの辺にしておく。そう云いながら、駅前の〈たらば書房〉という新刊書店には寄ってしまい、『映画秘宝』と『小説新潮』を買う。古本屋巡りを終えたあとの、まあデザートみたいなもんですな。以上の冊数を合計したら、古本37冊、新刊2冊となった。こんなに買ってドコに置くのか、いつ読むのか。その問題は棚上げにしておいて、横須賀線に乗り込むなり、ぐったり疲れて二人で眠ってしまった。


2004年12月14日更新
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10月某日 北京カラノ賓客ト神保町古書店ヲ散歩スル事
9月某日 【海外篇】ばり島デモ本ノアル場所ヲ求メテ彷徨スル事
8月某日 千駄木ニテ「もくろークン大感謝祭」ヲ執リ行フ事
6月某日 本ノ街・神保町ノ「本丸」デ古本ヲ熱苦シク語ル事
5月某日 北千住カラ入谷マデ日比谷線沿ヒヲ飲ミ歩ク事
4月某日 経堂デ「本之工藝」ニ触レ、田端新町デ「モツ焼」ニ溺レル事
3月某日 渋谷ノ夜、音楽デ体ヲ埋メ尽ス事
2月某日 初心ニ戻リ神保町ヲ回遊スル事
1月某日 渋谷カラ三軒茶屋マデ「本尽クシ」ノ一日ヲ送ル事
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5月某日 谷中ノ「隠レ処」カラ出デテ千石ノ映画館ニ到ル事
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12月某日 六本木カラ高円寺マデ本ヲ求メテ一日旅行スル事【後編】
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7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【後編】
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7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【前編】
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6月某日 W杯ノ喧騒ヲ避ケ、三ノ輪ノ路地ニ沈殿スル事
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5月某日 六本木ニテ「缶詰」ニ感涙シ、有楽町ニテ「金大中」ニ戦(オノノ)ク事
4月某日 徹夜明ケニテ池袋ヘ出、ツガヒ之生態ヲ観察スル事
4月某日 電脳機械ヲ購入スルモ気分高揚セザル事


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