第13回 『春よ来い』
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日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『春よ来い』です。
「春よ来い、早く来い…」で始まる『春よ来い』。ほのぼののとした情景の中に、春の到来を切望する雪国の人の心が描かれています。
この歌を作詞したのは、新潟県糸魚川市出身の文学者、相馬御風*。作曲者は、南国・高知生まれの弘田龍太郎(『靴が鳴る』の作曲者)です。
『春よ来い』(『金の鳥』大正12年3月号 に発表)
作詞 相馬御風(そうまぎょふう、1883−1950)
作曲 弘田龍太郎(ひろたりゅうたろう、1892−1952)
春よ来い 早く来い
あるきはじめたみいちゃんが
赤い鼻緒のじょじょはいて
おんもへ出たいと待っている
春よ来い 早く来い
おうちの前の 桃の木の
蕾もみんな ふくらんで
はよ咲きたいと待っている |
この歌は大正10年に誕生した御風の長女「文子」を素材に作られたといわれています。歌が作られた当時の文子は、数えで3才。ちょうど「あるきはじめた」ばかりで、自分の周囲に好奇心を向けるお年頃。でも、日本海に面した糸魚川市は雪の多い所なので、冬は家の中でじっとしていなくてはなりません。雪が消えて、赤い鼻緒の草履をはいて外出できるようになる春の訪れを、文子はひたすら待っているのです。御風は「じょじょ」や「おんも」といった幼児語を大胆に歌詞に取り入れることによって、彼女の心の叫びを見事に表現しています。
さて、この歌の歌碑は、糸魚川市の「地球博物館 フォッサマグナミュージアム」の入口にあります。碑の横には童謡を演奏する装置も設置されていて、ボタンを押すと『春よ来い』が流れてきます。御風に関する資料はこちらの博物館ではなく、糸魚川駅より徒歩10分の所にある「相馬御風記念館」の方に展示されています。歌碑と離れた所にありますが、ご興味のある方は是非お立ち寄り下さい。
*相馬御風 そうまぎょふう。歌人、詩人、文芸評論家。随筆家。明治16年、新潟県糸魚川市生まれ。明治39年、早稲田大学英文科卒業。『早稲田文学』の編集を担当し、自然主義文芸運動の先鋒として活躍する一方、早稲田詩社を結成して口語自由詩を提唱した。早稲田大学校歌『都の西北』や『カチューシャの歌』(島村抱月との合作)の作詞をしたことでも知られる。大正5年に郷里に帰ってからは、童謡や民謡、校歌、社歌の作詞、良寛の研究などにつとめ、昭和25年に死去。享年66。
[参考文献 |
『相馬御風・作詞の世界〜校歌・童謡・歌謡〜』糸魚川市教育委員会 平成7年] |
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場所:新潟県糸魚川市美山公園 「地球博物館 フォッサマグナミュージアム」入口
交通:JR北陸本線・大糸線「糸魚川」駅よりタクシー10分(バスはありません)
・相馬御風記念館
場所:新潟県糸魚川市一の宮1−2−2
交通:「糸魚川」駅より徒歩10分
開館時間:9:00〜16:30
休館日:毎週月曜日(祝日開館)、祝日の翌日、12月28日〜1月4日
入館料:大人 300円、高校生以下 100円(団体割引あり)
問い合わせ先:0255−52−7471
2004年2月19日更新
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