「まぼろしチャンネル」の扉へ
「番組表」へ 「復刻ch」へ 「教育的ch」へ 「東京カリスマch」へ 「日曜研究家ch」へ 「あった、あったch」へ 「再放送」へ 「ネット局」へ
「課外授業」
「国語」
「算数」
「理科」
「社会」
「情操教育」
秘宝館
掲示板
マガジン登録
メール
まぼろし商店街
まぼろし洋品店

「ぶらり歌碑巡り」タイトル

 

碑

アカデミア青木

  第14回 『早春賦』


 日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『早春賦』です。
 暦の上では春ですがまだまだ寒い日が続く3月、ラジオをつけていると「春は名のみの風の寒さや…」と『早春賦』の合唱が流れてきます。正月の箏曲『春の海』(宮城道雄作曲)や5月の『夏は来ぬ』(佐々木信綱作詞、小山作之助作曲)と並んで耳慣れたこの歌は、大正2年に発行された『新作唱歌第三集』で発表されました。作詞者は吉丸一昌*、作曲者は中田章**です。

 

『早春賦』(『新作唱歌第三集』大正2年 に発表)
 作詞 吉丸一昌(よしまるかずまさ、1873−1916)
 作曲 中田章(なかだあきら、1886−1931)

 

碑

 

 春は名のみの風の寒さや
  谷の鶯歌は思へど
 時にあらずと声も立てず

 氷解け去り葦は角(つの)ぐむ
  さては時ぞと思ふあやにく
 今日もきのふも雪の空

 春と聞かねば知らでありしを
  聞けば急かるる胸の思を
 いかにせよとのこの頃か

 

碑

 

 この歌の舞台となったのは、長野県の安曇野。春の訪れを待ちわびる山国の人達の心が描かれています。氷が解けて春がやってきたかと思うと、雪の日々。早春の三寒四温の空模様をじれったく思う心情が吐露されています。
 この歌の歌碑は、JR穂高駅から東に1.5Km、穂高川右岸の堤の上にあります。ここには歌碑だけではなく、五線譜を刻んだ曲碑、太陽電池を内蔵したオルゴールも設置されています。川面を渡る風に吹かれながら、早春賦のメロディーを楽しむのもいいでしょう。

オルゴール

穂高川

穂高川

 吉丸一昌は、明治42年から大正3年にかけて文部省が『尋常小学唱歌』を編纂した際に、編纂委員となっています。編纂委員は作詞と作曲の両方に分かれて任命され、作詞は芳賀矢一(委員長)、吉丸、佐々木信綱、八波則吉、上田万年、尾上八郎、高野辰之、武島又次郎(羽衣)が、作曲は、湯原元一(委員長)、島崎赤太郎、岡野貞一、南能衛、小山作之助、上真行、楠美恩三郎、田村虎蔵が担当しました。当時の音楽界には、東京高等師範学校&学習院を背景とする一派と東京音楽学校を中心とする一派の2つの派閥がありましたが、東京帝大出身の吉丸は、双方のまとめ役を果たしたといわれています。

わさび園

わさび園

 一方、彼は『尋常小学唱歌』にあきたらず、明治45年から自らが作詞した『新作唱歌』(〜大正3年。全10集。75曲)を発表し始めます。作曲には東京音楽学校卒の若手を起用し、中田章の他、大和田愛羅(代表作『汽車』)、梁田貞(代表作『どんぐりころころ』)、弘田龍太郎など後の大家達がここで育ちました。残念ながら吉丸は大正5年に42才の若さで急逝しますが、彼は美しい歌と多くの人材を後世に遺してくれました。

道祖神

道祖神

吉丸一昌*吉丸一昌 よしまるかずまさ。国文学者。作詞家。明治6年、大分県臼杵市生まれ。明治34年、東京帝大文科大国文学科卒業。41年、東京音楽学校教授、邦楽調査委員を兼任する。42年、文部省唱歌教科書編纂委員。45年から大正3年にかけて唱歌作詞集『新作唱歌』全10集を出版。代表作は、『故郷を離るる歌』(ドイツ民謡)、『早春賦』。音楽学校在職中の大正5年に死去。享年42。

中田章 **中田章 なかだあきら。音楽教育者。作曲家。明治19年、東京都生まれ。明治42年から昭和3年まで東京音楽学校で教鞭を執る。音楽理論とオルガンの教授。『早春賦』の作曲を手掛けたことで知られる。昭和6年に死去。享年45。次男の喜直(よしなお。大正12年〜平成12年)も作曲家で、代表作に『夏の思い出』、『雪の降るまちを』、『めだかの学校』などがある。


[参考文献

倉田喜弘・藤波隆之編『日本芸能人名事典』三省堂 平成7年

下中邦彦編『音楽大事典第4巻』平凡社 昭和57年

『東京音楽学校創立五十年記念』昭和4年

吉田稔『望郷の歌 吉丸一昌』臼杵音楽連盟 昭和63年]

場所:長野県南安曇郡穂高町等々力穂高川右岸
交通:JR大糸線「穂高」駅より徒歩35分


2004年3月1日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
第13回 『春よ来い』
第12回 『鉄道唱歌』(東海道編)
第11回 『赤い靴』
第10回 『靴が鳴る』
第9回 『紅葉』
第8回 『證城寺の狸囃子』
第7回 『かもめの水兵さん』
第6回 『箱根八里』
第5回 『赤い鳥小鳥』
第4回 『金太郎』
第3回 『荒城の月』
第2回 『春の小川』
第1回 童謡が消えていく
[ああわが心の東京修学旅行]
最終回 霞が関から新宿駅まで 〜霞が関から山の手をめぐって〜
第8回 大手町から桜田門まで 〜都心地域と首都東京〜
第7回 羽田から芝公園まで 〜城南工業地域と武蔵野台地を訪ねて〜
第6回 銀座から品川まで 〜都心地域と都市交通を訪ねて〜
第5回 日本橋から築地まで 〜下町商業地域並びに臨海地域を訪ねて〜
第4回 上野駅から両国橋まで 〜下町商業地域を訪ねて〜
第3回 神保町から上野公園まで 〜文教地域を訪ねて〜
第2回 新宿駅から九段まで 〜山手の住宅地域と商業地域を訪ねて〜
第1回 データで見る昭和35年


「教育的チャンネル」の扉へ