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第19回「もともと石鹸は白いものではなかった!」の巻
日曜研究家串間努
花王のロゴ・マーク


 「まったく頭に来る。見透かしたように持っていくんだから」
 我が家のお風呂場からプンプン怒って母が出てきた。昭和五一年の春のある日のこと、せっかく新しく買った『花王ホワイト』をネズミがくわえて、住みかまで持っていってしまったのである。

 排水口を伝わってくるのだろう、オンボロのお風呂場には以前からネズミが出没していた。ときたま石鹸がかじられた形跡があるので明白である。ネズミが石鹸を食べるのかどうかしらないが、たまに持っていってしまうことさえある。だから石鹸はいつも安い特売のものを使い、いちいち面倒だが取られないようにお風呂から出たあとは脱衣場まで引き上げていた。

 ちょうど明日が中学の入学式だったので、お風呂をたて、新しい石鹸をおろしたばかりだった。初めて着用する詰め襟を記念したわけでもないだろうが、ほんのささやかな心使いだ。私へのはなむけとして、母がいうには「テレビで宣伝しているちゃんとした石鹸」であるところの『花王ホワイト』をお風呂場に置いてくれた。それなのに冒頭のような珍事である。「高い石鹸」を奪われた母の怒りはすさまじく、「石鹸に何か仕掛けられないか」などといいながら、昨晩に限って石鹸をかたすのを忘れたことをしきりに悔やんでいた。

花王ホワイト

 花王ホワイトは、昭和四五年に発売された。今から一一〇年前の明治二三年に、日本で初めてブランド名を冠した石鹸である花王石鹸が発売されたが、その流れを汲むものである。

 ……明治五年、石鹸は国産化されていたが、家内工業で品質も良くなかった。泥を入れて増量するような粗悪な国産品と、値段の高い舶来品とが混在するなかで、花王の創業者長瀬富郎は「品質の良い国産石鹸をつくろう」と決意、天才肌の石鹸職人村田亀太郎を招請し、また化学的分析の面から瀬戸末吉薬剤師の協力を仰ぎ、花王石鹸の完成をみた。このネーミングは、当時、洗濯石鹸に対して化粧石鹸を「顔石鹸」と称していたのでこれを「香王」ともじり、更に知人に相談した結果、「華王」がよいとの提案をうけ、書き易く読みやすい「花王」に落ち着いたとのことである。

 銭湯代が二銭の時代に一個一二銭で発売された花王石鹸は、庶民にとっては高嶺の花の存在で、大正中期になって中流以上の家庭で石鹸がつかわれるようになったが、一般の日常生活で消費されるようになるのはもう少しあとになる。

 石鹸の製法は日々革新されるようなものではないが、その中で画期的な製品として登場したのが昭和四三年の花王ホワイトであった。
 まず、文字通り色が「白色」であった。
 「製造工程上、不純物を含んでしまう石鹸はどうしても白くなりませんので、それを隠すためにあえてピンクなどの色を着色していたんですよ」(花王株式会社)
 その限界を破ることに成功した花王ホワイトは、日本で初めての白い石鹸であった。 そして、それまでドロドロの原料を型枠に流し込んで固めていた「わくねり」製法から、大量生産ができる「機械ねり」製法を初めて導入したのも同製品。職人技だった石鹸作りが近代化した。二年後には石鹸のトップブランドとなり、八〇年代からはギフトの定番品となる。
 「創業者の長瀬が抱き続けた、品質へのこだわりがずっと受け継がれ、純度が高くて純白で、クリームみたいな泡立ち、そして繊細な香りの石鹸が誕生したのです」
 今や石鹸のスタンダード品となった花王ホワイト。品質にこだわる同社は、時代のトレンドにあわせて香りを変えたり、泡立ちのボリュームを上げるなど改良を重ね、家族が安心して使える製品を隅田川の風に乗せて私に送り続けている。

花王ホワイト
花王ホワイト

毎日新聞を改稿


2005年4月19日更新
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