10月某日 文化祭ノ中心デ
「ホン、ホン、ホン」ト叫ブ事 |
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昨年に続き、私立中学・高校の「文化祭」にハマっている。38歳・子どもナシのオトコがこんな発言をしたら、多くのヒトは不審に思われるに違いない。「ひょっとして制服マニアなんじゃあ……?」というあらぬ疑いまで掛けられるかもしれない。そんなコトはありません。
文化祭といっても、ぼくはバンド演奏とか部活の発表あるいは模擬店には目もくれない。学校に入って、向かう先は一カ所だけ、「古本市」のコーナーだけだ。図書委員会などの企画で、学内で古本を集めて販売する催し。図書館の不要な蔵書を処分する場合もある。売上はチャリティとして寄付されるコトが多い。営利目的ではないので、とにかく安いし、学校によっては意外な掘り出し物がある。文庫30円、単行本50円という信じられない安さで、プロの古本屋が行なう古本市でも出にくい本を見つけたコトがある。ふだんなら縁がなさそうな場所で古本と出会える。この非日常感が好きなのだ(ちょっと倒錯してるかな?)。買い終わったあと、学内の喧騒のナカを通り抜けて、近くの喫茶店に入るのもイイ。
9月某日、開成学園の文化祭に行った。ウチから徒歩1分という近さにあるのに、昨年はやっているコトに気づかず行けなかったという、痛恨のミスを犯した。今年は9月に入ってから、駅貼りのポスターをチェックするなど、スタンバイはOK。当日の朝9時、外でファンファーレが鳴り、花火の音がする。おっと始まったぜ。旬公をせきたてて、会場へ向かう。入口には、数年後にはこの学校を受験するツモリらしいおりこうなお子様とお母さんや、ステータスの高い学校の男子生徒をゲットして格を上げようと鵜の目鷹の目の女子高生ハンターたちがたむろしている。パンフを渡されるが、ほぼ毎年来ているので、古本市の場所は知っている。2階の渡り廊下だ。
ココの古本市は、図書委員会が前の代から受け継いでいる本に、新たに集めた本をプラスしているので、冊数がかなりある。たぶん生徒の親の趣味なのだろう、なぜか1970年代の角川文庫、とくにミステリーやSF系が充実していて、まとめて買い占めたくなる。難点は渡り廊下なので、後ろをヒトが行ったり来たりすること。でもまあ、お祭りだと考えれば、気にならない。
本を見ながら台に沿って移動していくと、左側に本を抱えている男の気配が。こいつも古本市狙いのマニアか、まさか古本屋のセドリ(安く買ってきて店で高く売る)ではあるまいな、とそやつを睨んだら、開成の高校生だった。ミステリーの文庫本を十数冊抱えている。読みたい本がたくさん買えて嬉しそう。20年前の自分を見ているようで好感を持ったが、いま自分が見ている場所は譲らない。コッチも真剣ですから。
30分ほどかけて一回りし、文庫20冊と単行本5冊を選び出す。亀井俊介『サーカスが来た!』(文春文庫)、山田稔『幸福へのパスポート』(講談社文庫)、野坂昭如・滝田ゆう『怨歌劇場』(講談社文庫)、『ちくま日本文学全集 木山捷平』(ちくま文庫)、海野弘『運命の女たち』(河出書房新社)、石子順造『キッチュ論』(ラマ舎)……などなど。料金は文庫30円、単行本80円。両手に抱えきれないほどの本をレジに持っていく。図書委員会の生徒が会計してくれる。
旬公と珍しく学内の展示を見たあと、休憩所で焼きそばとおにぎりを食べる。ああ、楽しいなあ。……で、翌日も行きました。買ったのは文庫14冊と新書2冊、単行本2冊。開成学園の文化祭は、古本市の最高峰だ。
これで、文化祭熱に火がついて、ほかの学校にも行った。10月前半には、早稲田実業学校の文化祭に行った。場所は国分寺。図書館の2階にあがると、「古本市やってますよ」と呼び込みが。靴をスリッパに履き替えて、入場。スデに客が群がっている。5つぐらいの長テーブルに、単行本と文庫を分けて置いている。値段は文庫30円、単行本が50円と100円。一通り回る。最近の本が多く、そこそこイイ本があるのだが、開成のように意外な掘り出し物は少ない。ちょっとゼイタクか。唐澤平吉『花森安治の編集室』(晶文社)、矢代静一『含羞の人 私の太宰治』(河出書房新社)、本多秋五『物語戦後文学史』(新潮社)、黒井千次『時間』(講談社文芸文庫)、仁木悦子『石段の家 自選傑作集』(ケイブンシャ文庫)、石光真清『城下の人』ほかの四部作(中公文庫)など15冊。これだけ買って560円。
満足して外に出て、名曲喫茶〈でんえん〉でコーヒーを飲む。先日亡くなったマンガ家の永島慎二も通った店で、上品な老婦人が一人でやっていた。大正時代の蔵を改造したという店内で、さっき買った本を取り出して眺めて時間を過ごした。
そして10月後半には、逗子開成学園の文化祭に行った。昨年に続いて2回目だ。逗子駅を降り、「なぎさ通り」というイイ感じの商店街を通り抜け、小雨が降る中を学校に到着。ココも場所は判っているから、案内は不要。2階の奥の教室が、古本市の会場だ。本は机の上に、段ボール箱に詰められて置かれている。文庫50円、単行本100円。冊数は多くないが、さすが開成で、講談社文芸文庫の鈴木信太郎『記憶の蜃気楼』と佐多稲子『月の宴』、古山高麗雄『風景のない旅』(中公文庫)、高橋源一郎『ジェイムス・ジョイスを読んだ猫』(講談社文庫)と、ナカナカのものが見つかった。ほかに、『獅子文六全集』全16巻(朝日新聞社)が全巻揃っており、思わず手が出るが、逗子から東京まで全集を持ちかえるのは不可能(置く場所もないし)なので、随筆を収録した5冊を買うことに。コレだけでも、相当重い。
学校を出て逗子駅に戻り、買った本をコインロッカーに入れて、海岸周りのバスに乗る。森戸神社で降りて、〈魚佐〉という魚料理の店へ。昨年もこのコースだった。開店前から並ぶ店だが、11時15分に着いたらサスガに誰もいない。ほかに行くところもないからと、時間つぶしに、さっき買った小峰元『ディオゲネスは午前三時に笑う』(講談社文庫)を読む。この本は高校時代の愛読書だ。3分の1読んだところで、ようやく店が開き、ミックスフライ定食を食べる。
……とまあ、アチコチの文化祭に行っているワケです。11月にかけて、いくつか古本市のある文化祭をチェックしているので、コレからもまだ行くだろう。用事で関西に行くので、そっちでも文化祭に行くかも。各地の高校生諸君、自分の学校の文化祭で、「ホン、ホン、ホン」と叫ぶ奇妙なケダモノを見つけたら、不審に思わずに、古本市の会場まで連れて行ってあげてくださいね。
2005年10月26日更新
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