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第24回
正しい観光地ミヤゲ (その5 最終回)
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今も買える「日本の正しいミヤゲ」を探して紹介するこのシリーズも、今回でいよいよ最終回となりました。最後は、お気に入りの「正しい」ミヤゲのうち、江の島の補足分と会津若松の飯盛山のオミヤゲをご紹介します。更新が遅れまして誠に申し訳ございませんでした。
さて、まずは前回ご紹介し忘れていた江の島ミヤゲから。
1.江の島・鎌倉遊覧記念下敷き(美しい貝類のいろいろ 二枚貝)
ちょっとした版ズレも魅力の一つ、二枚貝のイラスト入り下敷きは貝の名前の暗記にも役立つ博物学的なおミヤゲです。下部に印刷された「江の島・鎌倉遊覧記念」の文字は後から刷られたもののようなので、実際には全国の水族館、博物館、海沿いの観光地などで売られていたのではないでしょうか
2.螺鈿細工コンパクトミラー
今や江の島でも珍しくなったと言われる螺鈿細工のおミヤゲ、中でもこのコンパクトミラーはショーウインドーに飾られたままのデッドストックでした。
3.江の島サザエ急須
この通称「サザエ急須」は実用向きではないあやしげな逸品です。フタの部分に書かれた「江ノ島」の文字が削れてしまい、江の島のおミヤゲであることをすっかり忘れておりました。江の島の参道にあるおミヤゲ店で購入しました。
続いて福島県・会津若松市の飯盛山(いいもりやま)で購入したおミヤゲです。
飯盛山は、戊辰戦争で活躍した10代の男子で編成されたあの「白虎隊」が自刃した場所として有名であります。そんな山の中腹に通称「さざえ堂(螺堂、栄螺堂)」とよばれるお堂がありました。「さざえ堂」は、寛政8年(1796)に実相寺の僧・郁堂が建立、庶民巡礼の対象となっていた礼所の霊跡を現す仏像を安置する仏堂のことです。六角形、三層建の木造建築で、高さは約16m。正面から入って右回りにスロープを昇って頂上の太鼓橋を渡り、左回りのスロープで背面に出るという二重螺旋の面白い構造になっています。その構造がサザエの貝の中に似ていることからその名が付いたようです(このお堂は堂内を3回巡るので「三匝堂(さんそうどう)」とも呼ばれている)。この手のお堂は全国各地に存在したそうですが、現在では全国に数カ所しか残っていないそうです。堂内の頂上には、かつての観光客が残したであろう無数の千社札や落書きがあり、信仰の厚さと「○○参上!」的な思い出の残し方は大昔からあったんだなーと感心します(墨で書かれた明治、大正時代の署名入り落書きが有りました)。
では、飯盛山のミヤゲを2品ほど。
4.陶製さざえ堂貯金箱
上の急須とたまたまサザエつながりです。「さざえ堂」の形を模したデッドストック貯金箱が、ミヤゲ屋のウインドーにディスプレイとして飾られていました。交渉した結果、すんなりと売ってもらえました。むしろ「こんなものを買うんですか?」というような顔までされてしまいましたが。お堂の入口部分には「日本唯一 栄螺堂 會津」の文字が刻まれていますが、東京の足立区・西新井大師にも栄螺堂があります(ただし中は非公開)。
5.白虎隊ペナント
白虎隊とは、会津藩主・松平容保 (かたもり)に仕えていた16、7の若い武士たちで、藩主に忠誠を誓っていました。1868年に戊辰戦争が起こり、
白虎隊の少年達は勇敢に激戦を戦いましたが敗れ、ようやくにして飯盛山にたどり着いた20人は、藩主がいる鶴ヶ城が燃え会津が滅びたように見えたために、主君にたいする忠義を果たすべく、この山で自害しました。この話はのちにNHKの大河ドラマにもなったので、ご存じの方は多いと思います。このペナントは、おそらくNHK放送当時に作られたと思われます。
最後に、日本三景の一つ、京都府宮津市にある天橋立(あまのはしだて)に売られていたおミヤゲを一つご紹介して、このシリーズを終えたいと思います。江戸時代の儒学者、林春斎が全国を旅行して書き綴った『日本国事跡考』という本の中で、たぐい稀な景勝地として宮島(広島県)、松島(宮城県)、天橋立(京都府)を賞賛し、その名を記したのが日本三景の呼び名の始まりと言われています。天橋立は京都府の観光地ですが、京都市のある方とは逆の日本海側にあります。天橋立とは、湾に橋がかかった様に伸びた砂の上に松の並木が出来た所で、逆さに見ると天に橋がかかったように見えることからその名が付いたと言われています。約数千年の歳月をかけ、海に注ぐ川の流れと潮の流れによってつくりあげられたそうです。その天橋立のおミヤゲ屋にて、とても正しく可愛らしいおミヤゲを発見いたしました。
6.真珠のことり
天然か養殖か定かではありませんが(おそらく養殖)、極端に変型してしまって商品にならない真珠のうち、小鳥の形に見えなくもないものを集め、目を書き、首にヒモをむすび、台座に載せてみたおミヤゲがこちら。天橋立のおミヤゲかどうかは分かりませんが、少し悲し気で素朴な表情に一発でヤラレました。1個しか置いていなかったので、おそらくデッドストックだと思います。客に媚びたミヤゲが多い昨今、売り物にならない真珠を利用してこんなに可愛らしいミヤゲ物を作って売ってしまう、この商魂のたくましさにも感動しました。そう、この作る側・売る側のちょっとした「強引さ」にこそ、昭和のミヤゲ物の本当の魅力があるような気がしています。
正しいミヤゲ物の「正しさ」とは、お客に媚びないこと、受けや可愛さを狙わないこと、多少強引であっても観光地の雰囲気を伝えていること、そして、それらの条件を「自然に」クリアしていること、etc…。銭湯の全国取材の際、北海道から沖縄まで、各地でいろいろなおミヤゲ屋さんに入り、いろいろなおミヤゲ物を見ました。そして、この条件を満たしているミヤゲ物の少なさに愕然としながらも、たまに素敵な「正しい」ミヤゲを見つけると、髪の毛がパッと逆立つように嬉しくなるのです。
さあ皆さん、これから「正しい」ミヤゲ物屋を自分ではじめてみませんか? 沢山儲かりはしないけど、素敵なミヤゲ物たちに囲まれる生活もそう悪くはないと思います。
そして、そんなお店を必要としている人々は潜在的に、そして確実に存在しているはずですから。
(たばた ひろあき 有限会社DANぼ 社員)
2004年5月6日更新
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