「まぼろしチャンネル」の扉へ
「番組表」へ 「復刻ch」へ 「教育的ch」へ 「東京カリスマch」へ 「日曜研究家ch」へ 「あった、あったch」へ 「再放送」へ 「ネット局」へ
「課外授業」
「国語」
「算数」
「理科」
「社会」
「情操教育」
秘宝館
掲示板
マガジン登録
メール
まぼろし商店街
まぼろし洋品店

「ぶらり歌碑巡り」タイトル

アカデミア青木

http://www.maboroshi-ch.com/hoso/item-43.html
ラジオ版・ああ我が心の童謡〜唱歌編
http://www.maboroshi-ch.com/hoso/item-50.html
ラジオ版・ああ我が心の童謡〜童謡編
まぼろし放送にてアカデミア青木氏を迎えて放送中!

菜の花畑

第15回 『朧月夜』

 日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『朧(おぼろ)月夜』です。
 『朧月夜』というと「菜の花畠に、入日薄れ…」という出だしで始まるので、てっきり暖かい高知、和歌山、南房総辺りで作られた歌かと思っていました。しかし、調べてみると意外にも長野県が作詞の舞台だったのです。『朧月夜』の作詞者は、高野辰之。作曲者は、岡野貞一。『春の小川』や『紅葉』でお馴染みのコンビです。

 

『朧月夜』(『尋常小学唱歌 第六学年用』文部省 大正3年 に発表)
 作詞 高野辰之(たかのたつゆき、1876−1947)
 作曲 岡野貞一(おかのていいち、1878−1941)

 

碑

 

1.菜の花畠に、入日薄れ、
  見わたす山の端(は) 霞ふかし。
  春風そよふく、空を見れば、
  夕月かかりてにほひ淡し。

2.里わの火影(ほかげ)も、森の色も、
  田中の小路を たどる人も、
  蛙(かわず)のなくねも、かねの音も、
  さながら霞める朧月夜。

 

碑

 

 中国の北宋時代の詩人・蘇軾[そしょく。号は「東坡」]は、『春夜詩』*の中で、春の夜の美しさを「春宵(しゅんしょう)一刻直(あたい)千金、花ニ清香アリ月ニ陰アリ」と表現しています。「一刻千金」というと、隅田川の桜を歌った『花』(武島羽衣作詞、瀧廉太郎作曲。明治33年発表)の3番が思い出されますが、『朧月夜』では『花』を意識してか、蘇軾の詩を引用することなく、日本古来の「やまとことば」をちりばめて春の宵を描いています。「にほひ淡し」の「にほひ」は、古語で「色」や「艶」、「光」のこと。「里わ」とは、正確には「里曲」と書き、「里のあたり」のこと。歌詞全体に柔らかい優美な雰囲気が漂い、『春夜詩』が放つような重苦しい空気は少しも感じられません。

豊田村の曲碑

豊田村の曲碑

 『朧月夜』の舞台となったのは、高野辰之の故郷である長野県下水内郡豊田村。明治時代、この辺りでは照明用の菜種油を採るために、菜の花が盛んに栽培されていました。2番に出てくる「かねの音」は、高野の生家からほど近くにある「真宝寺」の鐘の音といわれています。高野は、故郷の春の風景を元にこの歌を作ったのです。

真宝寺の鐘

真宝寺の鐘

 『朧月夜』の碑は、豊田村と野沢温泉の2ヶ所にあります。豊田村では高野の業績を顕彰するために「ふるさと遊歩道」と呼ばれる小道が設けられていて、その道端に曲碑が建てられています。一方、高野が晩年を過ごした野沢温泉では、温泉健康館「クアハウスのざわ」の入口に歌碑が建てられています。この地には「おぼろ月夜の館 高野辰之記念館 斑山文庫」があって、高野の遺品が数多く展示されています。野沢温泉を訪れる機会があったら、こちらも是非お立ち寄り下さい。

道祖神

野沢温泉村の歌碑

*春夜     蘇軾
 春宵一刻直千金 春の宵の一刻は千金の値がある。
 花有清香月有陰 清らかな香りを放つ花。おぼろに霞む月。
 歌管楼台声細細 高殿から聞こえる歌や笛の演奏はか細く、
 鞦韆院落夜沈沈 中庭にはぶらんこが下がり、夜が重たげに更けていく。


[参考文献

小川環樹『中国詩人選集二集 第六巻蘇軾 下』岩波書店 昭和37年

・豊田村の『朧月夜』の碑
場所:長野県下水内郡豊田村 ふるさと遊歩道
交通:JR飯山線「替佐」駅より長電バス「親川」又は「永田」行きで「永田」バス停下車、徒歩10分。(バスは本数が少ないので注意。徒歩だと駅から約1時間)

・野沢温泉の『朧月夜』の碑
場所:長野県下高井郡野沢温泉村 「クアハウスのざわ」入口
交通:JR飯山線「戸狩野沢温泉」駅より「野沢温泉」行きバスで「野沢温泉」バス停下車、旅館組合案内所から麻釜(おがま)へ向かう道の途中、徒歩約5分。

・おぼろ月夜の館 高野辰之記念館 斑山文庫
場所:長野県下高井郡野沢温泉村
交通:「野沢温泉」バス停下車、徒歩5分。
開館時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝祭日は翌火曜日)
入館料:大人 300円、小・中学生 150円(団体割引あり)
問い合わせ先:0269−85−3839


2004年3月29日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
第14回 『早春賦』
第13回 『春よ来い』
第12回 『鉄道唱歌』(東海道編)
第11回 『赤い靴』
第10回 『靴が鳴る』
第9回 『紅葉』
第8回 『證城寺の狸囃子』
第7回 『かもめの水兵さん』
第6回 『箱根八里』
第5回 『赤い鳥小鳥』
第4回 『金太郎』
第3回 『荒城の月』
第2回 『春の小川』
第1回 童謡が消えていく
[ああわが心の東京修学旅行]
最終回 霞が関から新宿駅まで 〜霞が関から山の手をめぐって〜
第8回 大手町から桜田門まで 〜都心地域と首都東京〜
第7回 羽田から芝公園まで 〜城南工業地域と武蔵野台地を訪ねて〜
第6回 銀座から品川まで 〜都心地域と都市交通を訪ねて〜
第5回 日本橋から築地まで 〜下町商業地域並びに臨海地域を訪ねて〜
第4回 上野駅から両国橋まで 〜下町商業地域を訪ねて〜
第3回 神保町から上野公園まで 〜文教地域を訪ねて〜
第2回 新宿駅から九段まで 〜山手の住宅地域と商業地域を訪ねて〜
第1回 データで見る昭和35年


「教育的チャンネル」の扉へ