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「雑貨店」タイトル

第20回
「トタン屋根からヒントの
シャンプーハット」の巻

日曜研究家串間努



 昭和四〇年代はシャンプーの刺激が強かった。エメロンシャンプーや花王オイルシャンプーもそうだけど、お父さんのトニックシャンプーが目に入った日には失明するかと思った。まるでサロメチールを目に塗ってしまったようなパニック状態だ。そこで、昭和四〇年代の子どもたちは、お風呂に入るとき、「帽子」をかぶっていたのだった?

 目に入っても痛くないように頭にカッパのお皿のようなものを乗せて、シャンプーが目に流れ落ちてこないように工夫していたのだ。私はしたことないけどさ。だって買ってくれなかったんだも〜ん。

ピップフジモト これを作ったのが、今や『ピップエレキバン』で有名なピップフジモトだ。「フジちゃんシャンプー〜ハット」というCMもテレビから流れていた。
 ピップフジモト(元は兄弟二社で東京はフジモト、大阪は藤本と称した。ピップエレキバンのヒットで昭和五六年に社名変更)は、雑貨や医療用品の問屋であったが、昭和四三年に「自社製品を開発しよう」ということになり、現相談役の矢崎誠一氏をチーフに、今回お話を聞いた酒井昌視さん(現・奈良工場長)が片腕として、二人だけの企画室が誕生した。生理帯や哺乳瓶の乳首の改良のパテントを持つなど、アイデアマンだった矢崎氏はまず、携帯用のビデを開発して、ピップフジモトの第一号製品として売り出した。

 その次が「フジちゃんシャンプーハット一五〇円」である。自分の子どもが頭を洗うのを嫌がるのを見て、シャンプーが垂れてこないように帽子を作ったらどうかと矢崎氏はひらめいたのだ。「今と違ってスイミングスクールもなく、子どもが水をかぶる機会が少なかったのもシャンプー嫌いの一因でしょう」と酒井さんは振り返る。
 フチが波形になっているのは実用新案。トタン屋根のたわみを参考にして、水の重みに耐えられるようにしたのだ。丸くくり貫かれた頭部のフチもミソで、水が侵入しないようにパッキンの役割を果たすので重要だ。

シャンプーハット

 現在の製品のサイズはフリーサイズだが最初はMとLがあった。「近所の子をつかまえてメジャーで計って直径を決めたんです」何百人もの子どもの頭のサイズからデータを割り出したという。材質が進んで伸縮性が出てきたので昭和五七年頃フリーサイズに変わった。

 当初は「ソフトロン」というプラスチックの仲間の材質で製造したが、子どもはすぐに引っ張りたがるので、強度に問題があった。そこでEVA(エチレン酢酸ビニールポリマー)という新材質を初めて商品に応用し、破れないようにした。これらの樹脂は最初はゴムシート状で、これに発泡剤を入れて熱を加えると二〇センチくらいのマットレスのように膨張する。この熱加減が難しかった。そして四ミリの薄さにスライスするのも大変で、そんなに薄いスポンジ状のものを打ち抜くにも技術が必要だった。頭頂部分のくりぬきである。

 そして驚くことに出来上がったシャンプーハットをビニール袋にいれ、ホチキスで止める作業はすべて手作業だという。最初は社員が家に持ち帰って作ったり、会社の寮生にやってもらった。もちろん酒井さんも家でせっせと袋詰めした。現在も手作業は続いているが、外注の内職になっている。

 そんな苦労を重ねてつくった「シャンプーハット」であったが問屋からは「プラスチックの帽子なんか売れないよ」という声が出た。社内でも「三枚一〇〇円でも買わないよ」という声が出た。ううう、あんまりではないか。

 事実、最初は売れず、在庫の山になったので、酒井さん自ら、スーパーの店頭で被って説明に励んだ。「大阪高島屋のベビー用品売り場が一番恥ずかしかった。売りたい気持ちはあるんですが、被っていると(お客さんに)笑われますし。でも手にぶら下げておったらわからんしで……」

 そして会社の上層部には内緒でテレビCMを作った。これには二バージョンがあって、第一弾は気球にハットをつけて河原に落としただけ。ゴールデンタイムは料金が高いので朝早い六時台など視聴者が少ない時間帯に放映したという。次が私もお馴染の風呂場で実際に使用しているシーン。この効果もあって発売二年後の昭和四六年がピーク、年間一二〇万枚もの売り上げを達した。現在は年間三〇万個が出て、ピンク六対ブルー四の割合である。

「昭和四六年頃は近所の団地の風呂場の窓にバーッとシャンプーハットが干してありましたねえ」と感慨深げだ。
 昭和五一年には『シャンプー仮面』というのも売り出した。ゴーグル状のものを装着することでシャンプーがしみるのを避ける。これはテレビの仮面ヒーローものの人気と連動し爆発的ヒットとなったが、プラスチックで目や耳を塞ぐので、遊びに使った場合に目がくもって前が見えなくなったり、耳が聞こえず危険だというクレームがついて、製造中止になった。

 実物は「もう残ってません」ということで見せて貰えなかったけれど、ひょんなことから、この「シャンプー仮面」が最近手に入った。両目だけがプラスチックで透明。あとはシャンプーハットと同じ材料のスチロールだ。確かに見た目は格好いい。でもこれを実際にはめて見ると……。頭に止めるゴムがきついのは、もう大人だから仕方ないにしても、鼻までおおわれているからだんだん、息が苦しくなってくる。そして目の部分が自分の吐く息で白く曇ってくるのだ。……こりゃだめだ。あまりにも「水ももらさぬ」完璧なものを作ったために、目は見えないし耳は聞こえないというとんでもない品になった。ウルトラマンじゃないけど、シャンプー仮面になれるのはマジに三分間が限度だ。ふうー。

GON!を改稿


2005年5月4日更新
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