(前回の続き)
vol.53 多摩湖自転車道を行く・その1
あ、圧倒的じゃマイカ!!?
改めて見なくても圧巻のフォルムとディティール、そして経時変化具合。
花見の時期、桜ともよく映える。
見とれてばかりもいられないので少々蘊蓄を。
隣り合う二基の村山下貯水池取水塔の第一取水塔は大正14年の完成で、貯水池の取水塔第1号となるらしい。塔は水面の上に出ている部分だけでも12m以上あり、二つの取水塔の中間には朝霞・東村山線から水を引き込む導水路口が潜んでいるという。
円柱型のシルエットにネオバロック様式と呼ばれる柱・窓、そこにドーム屋根が被さるという姿は、その後の取水塔の雛形になった。
煉瓦のディテール、半円窓のR、ドーム屋根最上部の針金細工のような意匠、入口上部の紋章、そのどれをとっても間近で見たいと、湖岸と繋がるアーチ橋から潜入したくなるが、残念ながら工事中で間近から拝めない。
水位によって煉瓦部分の経年変化の度合いが違うから独特の退色グラデーションができており、近づきがたいオーラを発している。それにしても昼間からしてこの迫力なのだから、夜中、天体観測なんぞで暗闇の中、傍に取水塔が現れた日にゃ、卒倒してしまうだろう。
カメラを構えながらも、ズームするとどこか後退るような絵になってしまう。ビビリな自分はここで退散。
自転車道へ戻ろうと鉄橋を歩いていたら、石を積んだ段々畑状態の斜面が窺えた。
十二段の滝といって、多摩湖がオーバーフロー、つまり堰堤から溢れないようにここから余り水を放水するのだそうで、水の勢いを抑えるため段々になっているという。
自転車道を西へと進む。
左手に瀟洒な住宅が続くここは湖畔という住所地になっている。
多摩湖と東大和緑地の間は宅地開発され、キレイに区画整理がされていおり、等身大リカちゃんハウスが並ぶ。ここだけ「ウソだろ!?」って程に虚像のおとぎの国のようだ。
今どの辺を走っているのかわからなくなるほど、新緑の落ち着いた風景が延々と続く。次の目的地はまだかよっと思う頃、緑に囲まれた中に真っ赤なラインが覗き見られる。
鹿島橋という結構立派な鉄橋で、二つの丘を橋が繋いでいる。橋の手前が村山下貯水池で向こうが上貯水池になっている。つまり谷間の道が、二つの貯水池を区切る堤体へと繋がっている。
ここでその谷間を南へ下ってみることにする。
橋の脇にはまるで獣道のような緑溢れる旧道が続いている。緑のフィルターを通して直射日光は和らぎ、雨露にぬかるんだ足元からは土のにおいがする。
最初はその涼しさに気持ちをよくしていたが、段々と道幅が狭くなるにつれぬかるみも増し、なんだか普段見かけなさそうな両生類がヒョッコリ顔を出しそうな不穏な空気が満ち満ちる空間になっていた。
単にビビってきただけだが、この先道はなさそうだと自分に言い訳をして来た道を戻る。
途中の分岐点を入ると、そこは舗装された道路になっていた。ホッと胸をなでおろし、改めて湖の向こう岸へと渡ろう。
(続く)