第11回「カタイソフトとヤワラカイソフトとは?」の巻
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焼きそばには「カタイ焼きそば」と「ヤワラカイ焼きそば」の二種がある。みなさんはソフトクリームにもそれがあることを知っていますか?
「ヤワラカイソフトクリーム」は盛り場にあるジューススタンドでよく売っていたモノで、おねえさんが、三角錐の「日世のコーン」に機械からウィーンと絞り出してくれた。ヘンな食べ方として、コーンの下部先端をバリバリッと歯で噛み砕き、出来た穴からチューチュー吸ってたヤツは私の他にもいるんじゃないか?
段々溶けてくると穴から激しくクリームが流出し、パニック状態になったよナ。「ピンチです、怪獣バニラが激しく攻めて来ました」「あ、ナメゴンが救出に向かいました!」などと一人で実況中継しながら格闘してたものだ。あー、バカな少年クシマ。
これに対して「カタイソフトクリーム」(日本語と英語の間で形容矛盾が起こっているナァ)と言うのは、街のお菓子屋の店頭にあるアイスボックスに入っている、メーカー製のアイス。流通商品がヤワラカイと壊れてしまうからだろう、クリームがとても固かった。アイスにはカバーが被さっており、透明プラスチックカバーと薄いモナカカバーの二種類があった。
モナカ式カバーはカバーも食べられるのでお得な気がしたが、これは、はずす時が大変だ。アイスがモナカの裏にべったり引っ付いているから、モナカをねじるように無理に引っ張ると、「ボコッ」とコーン部とアイス部が分離してしまう。こんな時は舌でペロペロッと舐める楽しみを失い、おさじでモナカの中をすくう羽目になる。マレーシアのことわざで「インディゴを一滴落とすだけでポットのミルクはダメになる」というのがあるが、人生、ちょっとした失敗で取り返しがつかなくなるものだ。
でも落ちたアイスも水道で洗って食べたけどね
昭和四十年代の店頭アイスボックスには忘れがたいアイスがたくさんあった。「おっぱいアイス・とうもろこしアイス・メロンカップ・二色アイス・名糖ホームランバー・グリコジャイアントコーン・パピコ」
ほーら思い出して来ただろう。
私が好きだったのは、誰が呼んだかチューリップアイス。竹ひごの先に赤青黄の砲弾型シャーベットがついたものを複数本束ねたものだ。着色料に染まった安ジュースをポリエチレンに詰めたものを凍らせたチューチューアイスは、吸ってるウチに氷だけになってしまって、長持ちするんだけど最後が味気なかった。バナナアイスはなぜか棒が二本刺さっており、アイスを半分ずっこすることができたので、友達と五円ずつ出し合って買ったものだ。「赤城しぐれ」というカップ入り氷菓は、キンキンに冷えていると木のさじでは歯が立たず、カップのふちに沿ってさじを廻しながらほじくった。カップのフタの裏側もベロンベロン舐めまわす。産毛みたいだった。
アイスボックスの中は大変魅力的だったけど、こづかいには限りがあった。そこで私の友達はどうにかしてタダでアイスを食べようと悪知恵を働かした。ヤツのワザは、アイスボックスの中に頭から上半身まで突入し、商品を選んでいるフリをしながらカップのフタを開け、そのまま舌ですくって食べるというものだ。手が使えず顔だけで作業を行うので「息がちょっと苦しい」と語っていたな。ボックス内で犯行が行なわれるから、ちょっと見ただけではバレないらしい。
「『赤城しぐれ』をがぶっと口に入れ、大きい氷があるとまた容器に戻すということをやってました。最後のほうになると、容器の中は透明の大きな塊がごろごろして、美しいと思うのですが、実際はよだれでベトベト」(昭和四六年生 千葉県)
そうカップ氷といえば『赤城しぐれ』が懐かしい。昭和四十年頃に発売されたこのネーミングは、戦前に霧島昇が歌ってヒットした同名の流行歌からとったという。側面が歯車のようにデコボコした容器であったが、これには意味がある。固い氷にサジを入れた時に、滑ってグルグルと回転しない働きだ。またカップを持つ時、指がでっぱりだけを触るので、冷たくて持てないということを防ぐ。このアイデアは追随メーカーも採用するほどだった。
だが、冷蔵ケースでキンキンに冷えていたカップ氷は実に固くて、しばらく置いておかないと歯が立たなかった。
こんなに固かったカップ氷だが、最近、画期的なカップ氷が発売された。ロッテの、「ソフト氷」がそれだ。平成七年以降、カップ氷の売上が毎年減少していることに危機感を覚え、ソフト化に着手した。今までは混ぜるシロップが液体だったからカップ内で全体が固くなる。そこで、凍らせたシロップと削り氷を混ぜ合わせた。固体と固体を混ぜたので氷同士の間に隙間ができ、スプーンがスムースに通るようになるわけだ。
カキ氷界の積年の難問がここに氷解したのであった。
●週刊文春と報知新聞をあわせて改稿
2005年3月14日更新
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