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第二十九回『中学生の頃は、東宝。それも<ゴジラ>ではなく、怪奇特撮映画の<マタンゴ>に大痺れ。』似顔絵


 実は今、テレビで大人気の<仮面ライダー響鬼>、コレが好きで僕は時々観ている。爆煙と共に赤黄青等揃ってピョンピョン飛び出す何とかンジャーと違い単純に子供活劇特撮番組と言い切れない奥深さがあり、テレビと言うより映画的なのである。
 特撮は勿論、サスペンスからホラーまで映画は大好きだが、イイトコ取りで巧妙に作られたCMをパッパッと観ただけで千八百円を握りしめてわざわざ映画館まではチョットと言う僕は、セコいが新作も少し待ってからレンタルで借りることが多い。

 響鬼風特撮ではないが、先日も、ケイト・ブランシェット主演の<ギフト>のDVDをレンタルして観た。<心臓が凍りつく衝撃>超感覚(ギフト)を与えられた彼女だけがこの事件を解き明かすという謳い文句通り最高だった。
 その<ギフト>、本当に超感覚ミステリアス・ムービーらしく超常現象も不気味感盛々で真犯人も最後まで分からず、霊が人を助けるなどゾクッゾクドキッドキだったが、そんな不気味映画から僕が思い出したのが、あのシドニー・ポワチェとロッド・スタイガー主演映画<夜の大捜査線>。
 超懐かしい〜<夜の大捜査線>も、疑惑が二転三転。最後まで犯人がわからず目が離せない迫力・面白さながら殺人事件のためか微妙にどこか異常感ドロドロの連続。偶々、列車の乗り継ぎだったかの都合でその町の駅にいたことから殺人犯と疑われたことをきっかけに、殺人課のエリート黒人刑事が人種差別・偏見と戦いながら住民から敵対視されながらも、無実なのに被害者のサイフを持っていたことを理由に犯人にされた若者を救うために小さな真実を静かに手繰り寄せるようにしながら真犯人を暴いてゆく映画だが、蠅をピシッピシッの真犯人が根限りキモく、最後まで気が抜けない謎解き展開であることや主人公の孤立感が<ギフト>と実によく似ている。

 さて、シネマという言葉からは程遠い映画館通いのあの頃と違い、今はビデオだDVDだと映画好きには凄く便利な時代。僕が若い頃劇場上映されたもう一度観たいモノもけっこうレンタル店に揃っていて、自宅でノンビリ観れる。それに、仮面ライダー響鬼やハリー・ポッターではないが邦画の特撮技術が物凄く進歩していて、渦巻く火炎も変身も今はそう見えるから凄い。ヒモ付き模型や人形、合成ズバリまる分かりの当時の東宝特撮を観ていた僕など感心するばかりであるが、チャンバラ全盛時代の小学生から怪談映画通いであった僕のそんなサスペンス・ホラーや特撮等ソレラ系映画好きは、多分、父の影響だと思う。特に中学生頃まではよく父と二人で映画に出かけていたが、あの頃の東宝特撮モノについても、大抵父の隣。二人で並んで観た記憶しかない。

 昭和三十年代、映画館も邦画もまだまだ斜陽など全く関係なく一年中活気があって大衆娯楽として超大人気時代。中学生の僕は、それまでのチャンバラ映画とは達う東宝映画をよく観ていた。
 その東宝と言えば、当然、特撮。透明人間やガス人間第一号といった映画は観た記憶がないが、ゴジラ、キングコング、ラドン、モスラ、海底軍艦、宇宙大戦争、妖星ゴラス等けっこう観ている。そんな中でも強烈な印象で憶えているのが、実は、<マタンゴ>と<フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン>。
 それぞれどういうタイミングで映画館上映されたのかは記憶が曖昧だが、現在でも超人気の<ゴジラ>でなく大人でも楽しめる怪奇特撮である所が父の趣味なのか、この二つも、中学生になってから父の横で観た気がする東宝特撮映画である。

 当時、僕の住む町にも映画館はあったが、現在のようなオシャレな映画館など一つもなく、勿論、何々シネマといったような言い方などはしてなくて、太陽館だの築港座といった日本的な館名が普通。駐車場も、自家用車が現在のように走ってないわけであるから必要なく、自転車やカブ、オートバイ(単車)が無造作に映画館入口付近に並べて止めるのが当たり前だった頃。あの時、父と僕はバスで出かけた記憶がある。
 薄暗い館内の隅で売られていた飲み物も、ラムネ・オレンジジュース・コーヒーといった辺が普通。何だか一年中いつも飲み物は抜群に冷えていた感じで、勿論、コーヒーも何もかも全部ヒョロッとした形の瓶入り。丁度、コーラ瓶を細く小さくしたような感じの模様入り瓶モノ。オレンジやパイン味の粒々サラサラの粉をかき混ぜ水に溶かして飲んだ粉末ジュース・懐かしいテレビCMにあったエノケンが鼻にかかった声で歌う<ワタナベのジュースのモトだよもういっぱい>ではないが、僕にはアッサリ薄甘苦くて実においしい味のコーヒーだった。

 そんな映画館通いでの東宝映画怪奇特撮でチョット大好きと言えば<マタンゴ>。どうして怪奇キノコで<マタンゴ>なのか、タイトルについては五十四歳の今も分からないまま過ぎているが、とにかく、怪奇特撮であるから不気味シーン連続は常識。例の<マタンキ>どころの話ではなく館内はシ〜ンとして台詞が響き水野久美のキスシーンには興奮を察知できる咳ばらいは聞こえても、最後まで誰一人一度も笑わなかった。

<マタンゴ>

 キノコを食べることで怪物マタンゴになることはそれ程怖くはなかったが、手や顔などがブツブツと爛れたような半マタンゴ状態の仲間がドアやガラスを壊してキノコを食べさせようと襲いに来るシーン。人間を襲い食べるのではなくキノコを食べさせようと言った所が微妙だが、それが物凄くて僕の恐怖心もソコで大爆発。あの頃まだゾンビ映画は観たことがなかったが、丁度アレ風な独特の寒けに襲われビテイコツ尻肌がザビーッとなるアノ気色悪い感覚が広がる異常な恐怖感に、東宝怪奇特撮と言えば、即、<マタンゴ>となるのである。
 漂流後辿りついた島での怪奇冒険話を、一人だけ救助されどこかの精神病棟かに保護されている主演青年が語り始める場面から始まる<マタンゴ>、シェーッをするゴジラやモスラの前でモスラ〜やモスラ〜コカ※チゴ☆△カコ〜ンと妖精サイズのザ・ピーナッツがハモり歌うような子供向け冒険娯楽特撮映画とは全然違う大人向け特撮に、とにかく緊張の連続。完全に終わるまで気が抜けない上、トドメは最後の最後、全て語り終えて後ろに振り向いた青年も、結局、既に顔半分だったか目だったかの辺に皮膚が爛れたようなマタンゴの特徴が出ていて、ソレがまた滅茶苦茶強烈。一瞬息が止まる程のウヒャ〜状態になった僕である。

 <フランケンシュタインと地底怪獣バラゴン>もまた僕には忘れられない東宝怪奇特撮映画である。

<フランケンシュタインと地底怪獣バラゴン>

 <フランケンシェタイン>の場合も、とにかく息を呑むばかりで全然笑えない。その細胞が巨大ダコに引きずり込まれた海へ流出とかで、後年、<サンダ対ガイラ>と言う続編が確か出て観たが、サンダは人間の味方・ガイラは人間を襲って食べるといった設定話。森をハイキング中の人間を噛みちぎって食べるシーンは残酷過ぎて凄過ぎた。
 K君似の何とか博士役のニック・アダムスと言う五角形顔の外国人起用が新鮮だったが、成長・巨人化したフランケンシュタインが、水野久美演じる放射線研究所員の住むマンションの窓から覗くシーンや夜の琵琶湖で遊覧船の音楽に惹かれて近づくシーンは実に気持ち悪くよく出来ていて、異常に不気味で今も忘れられない。
 ただ残念なのが、この<フランケンシュタインと地底怪獣バラゴン>、途中までは東宝特撮の大迫力ながら最後が凄く中途半端に萎み終わり、それこそ中高年の夜のナニで言う<中折れ状態>。今一つ不本意・不満足なアレ〜レッレ〜<終>だった記憶がある。
 バラゴンとの激しく燃え上がる火の海化した森での戦いにフランケンシュタインは勝つのだが、その直後、なぜかそこへ唐突に巨大ダコが出現。フランケンシュタインは、その巨大ダコに簡単にアヘアヘズルズル海に引きずり込まれて<終>の筆文字が出て、拍子抜け。バラゴンとの燃える森林戦での大興奮は何だったのか、フニャ〜と一気に盛り下がってジャカジャカジャ〜ン的に映画は終わってしまった。
 巨大ダコでケリをつける最後のソコラ辺はどうも納得できない不自然さを覚えた僕に、「そりや多分、この次の映画を、永久に死なないフランケンシュタインと南海の大ダコの戦いにするためじゃろう」と、飲み終えたコーヒーの空き瓶を板の座席下に転がしながら父は言った。

 残念ながら細かいストーリー展開全ての記憶はなく恐怖シーンあれこれについては強烈に憶えている僕であるが、あの頃、若大将シリーズとの二本立て上映だったような気もウッスラする。四十年以上も昔のコト、頭髪も薄くなった頭でいくら考えてもそれこそ記憶はゴチャ〜としていて悔しいが曖昧モッコリ。
 家内の大好物、三幸製菓の丸大豆煎餅を少し分けて頂いてポキッコリ言わせながら、それにしても東宝特撮永遠の胸キュン女王・水野久美が見せたたった一度の激しいキスシーンに微妙に僕も性旬の疼きを覚えたキノコ怪奇映画のタイトルが、何で<マタンゴ>だったのだろうと今日も考えてしまう僕である。


2006年1月10日更新


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