小林製薬のコマーシャルはスゴイ。
昭和四〇年代の、パイプ洗浄剤「サニボンF」や「バスタニック」の時代から、現在の「ポット洗浄中」「キズドライ」にいたるまで、全てのCMが長い説明口調なのだ。「トイレその後に」という商品を例にとるとこうだ。
「一秒でも早く消えて欲しいトイレのニオイに『トイレその後に』。こもったニオイにシュッとしても、便器からわいてくるニオイにシュッとしても瞬く間に消してくれる。スプレーした瞬間もう臭わない『トイレその後に』。外出には携帯用!」
何の商品か一目瞭然である。私は日頃から小林製薬の説明口調CMに注目しており、新製品がでるたびに今度はどんな説明なのかワクワクし、薬局に走りたくなるのである。
さてモスボックス。
スーパーマーケットの雑貨売り場でアルバイトをしていたある日、ものすごく大きな段ボールが届いた。上司はこれを陳列してくれという。小学生高学年の身長ほどもあるこの大きな物体はなんだろう、私はカッターナイフで注意深く梱包を解いた。それが小林製薬「モスボックス」だった。衣料用の防虫剤である「モスノー」や「モスビーズ」でその名前は知っていたから、おそらく、この組み立て式の紙製衣裳ケースの内面には防虫剤が塗布してあり、その箱に衣類をしまうことで、カビや虫を寄せ付けないという寸法だと一人合点していた。
今のいままでだ。
ところがその話を小林製薬株式会社のモスボックス担当者にすると、
「みなさん誤解されているんですよ。技術的には防虫剤を塗ることはできますが、箱の耐用年数まで薬剤の効果が持続するか不明なので……」と笑う。モスボックスは組み立てが簡易な段ボール製の衣裳ケースであり、防虫剤は別に買って入れるというのだ(現在は防虫剤が添付されている)。
「ニューモスボックス」が発売されたのは昭和六〇年。まずブラウンとジーンズ柄の二種類が登場し、ストーン調や桐柄などデザインは広がった。
「昔、衣類は桐でできた茶箱に入れたり、柳行李にしまっていましたが、重かったり、持ち運びが大変だったりと不便でした。そこでもっと軽くて使い勝手のよいものはできないかということでモスボックスが開発されたのです」
最初はフタを被せる方式だったが、これだと積み重ねた場合に全部下ろさないと一番下の箱の中味がわからない。そこで、すぐに衣類を取り出せるような「引き出し式」を昭和六三年に発売した。
プラスチック製の衣裳箱はあったが、現在のようにテレビショッピングで「四個つけてたった一万円で御奉仕!」の時代ではなかった。一箱が一万円もするものであり、モスボックスの安価さに消費者は飛び付いた。
「紙製ですので通気性があって衣類に優しいことと、軽いので主婦が自転車で買い物に来て、持って帰れるのも喜ばれた原因です」
また、量販店にとっては、少しのスペースで売り場面積あたりの売上が上がるので歓迎された。
「中味が見えたらもっと手早く衣類が探せていいのにな」という声に応え、平成五年には「見えるモスボックス」という兄弟商品も発売した。組み立てもいままでは白いビスをネジ式に回して止めていたが、主婦から「手が痛くなる」という声があがり、ビスで「パチ、パチ」と止める方式に転換、より使い勝手が増した。強度もアップして今では八段積みまでOKだという。
紙製なので、耐用年数が過ぎたら「燃えるゴミ」として出せ、環境にも優しい。今後はインテリア感覚を取り入れながらフレキシブルな多目的ボックスとして発展していくという。
●毎日新聞を改稿
2005年8月12日更新
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