2月某日 池袋ノ「本すぽっと」ヲ周遊シ、〈新文芸座〉ニテ怪シゲナ人物ニ会フ事 |
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ある平日の午前中、とりあえず仕事に区切りがついた(というか、ムリヤリ「あとでもナンとかなるだろう」と自分を納得させた)ので、池袋に行ってみた。まず、西武のイルムス館に入っている〈リブロ〉で、某誌の書評で取り上げる本を選ぶコトにする。毎回3冊紹介しているが、あまり自分の趣味に走らずに、ふだん読まないタイプの本を取り上げることにしている。今日も、劇団ひとり『陰日向に咲く』(幻冬舎)、有川浩『図書館戦争』(メディアワークス)など何冊か買った。
そのあと、上でやっている古本市を覗く。西武百貨店の古本市は、1980年代に本館の大催事場で行なわれていた。時あたかもバブルの時代ということもあり、高価な本が多く出る古本市だったように思う(カネのない大学生だったから、余計そう思えた)。それがいつの間にかなくなり、数年前にこのイルムス館で復活した。以前に比べたら小規模だが、イイ本を出す古本屋さんが参加しているので、毎回覗いている。
このところ、自宅の都合(本を置くスペースが皆無)とフトコロの都合で、古本市に行く機会が減っている。だからなのか、ゴチャゴチャといろんな本が並んでいる中から、自分の欲しい本が選び出せない。しばらく間を置いたので、カンがにぶったのだろうか? それでも30分ほど見て回るうちに、江崎誠致『新宿散歩道』(ミセス編集部刊)600円、と『SFワールド』1985年1月号、500円、を手にする。後者の特集は、「ハチャハチャSFの祖・横田順彌研究」というもので、中学生からヨコジュンのファンだったぼくにとってはぜひ持っていたいモノだ。
奥のほうには、神保町の〈虔十書林〉が雑誌のバックナンバーを多く出していた。最近気になっている、牧神社の『パンドラの匣』(女性雑誌だが、毎回すごいヒトたちが寄稿している)が一冊あったが、どうも持っている号みたいだったのでパスして、『だぶだぼ』43号(1977年6月)1500円、を買う。渋谷のタウン誌として出発したが、途中からカウンターカルチャー雑誌としての色彩を強めた。初期はB6判だったが、この号はA4と大きくなっている。キャッチフレーズは「シティ・ピープルを燃やすライヴ・マガジン」。「マスコミ必殺仕掛人たち」という特集には、『少年マガジン』編集長の内田勝氏が登場している。ジョージ秋山の『アシュラ』の主人公のモデルと呼ばれるが、ぼくが数年前にお会いしたときにはそういう印象はなかった。しかし当時の写真を見ると、まさに「アシュラそのもの」と思わせられる。
古本市を見たあと、もう少し古本屋が見たくなり、南池袋の〈古書 往来座〉(http://www.kosho.ne.jp/~ouraiza/)へと向う。できてからまだ2年ぐらいだと思うが、古い本から最近の本までよく揃えている。いま、ビルの外壁を工事しているらしく、外からちょっと看板が見えにくい。外のスペースが充分あるため、外台の本の量はかなり多い。さっき買った江崎誠致の長篇『十字路』が200円と安かったが、荷物が増えたので今日は買わずにおこう。そのあと、〈ジュンク堂書店〉の1階・新刊コーナーをさっと見て、今日の池袋東口の本スポット周遊はとりあえず終了。
いま〈新文芸座〉では「マキノ雅弘監督特集」をやっている。昭和初期から1970年代まで現役で活動した監督なので、ものすごく作品数が多い。ぼくが観たのはそのうちのせいぜい30本ぐらいか。今回の特集でも未見の作品が何本か上映されるのだが、なかなか来れなくて、やっと今日観にくることができたのだ。ロビーで、先日発売されたマキノ監督の《鴛鴦歌合戦
コレクターズ・エディション》を購入。日中戦争のさなか、1939年に製作されたとは信じがたい、奇跡のようなミュージカル・コメディ(なにしろ、あの志村喬が歌うのだ!)。学生時代から何度となく観たが、このセットには、大日本ビール(サッポロとアサヒの前身)の宣伝映画《泡立つ青春》(1934)が特典として付いているのだ。ココで買わずばドコで買う? 大枚6300円を払って、場内に戻る。
今日観たのは、《侠骨一代》(1967)と《侠客列伝》(1968)。どちらも高倉健が主演で、藤純子がヒロイン。後者では、小田原の漁港を縄張りとする博徒の親分が、ヤクザの大同団結式の仕切りを任されるが、あれこれ難癖をつけられて相手に切りかかり、返り討ちにされる。子分たちは耐えに耐えて……というハナシ。どこかで聞いたようなストーリーだなあと思ったら、『忠臣蔵』と話の構造がそっくりなのだった。健さんのほか、鶴田浩二、若山富三郎、長門裕之と脇役も豪華だった。
ヤクザ映画を観終わると、外に出たとき、自分の身体も宙に浮いているようなカンジになる。ところが今日はそうならなかった。ナゼかといえば、休憩時間にトイレにいったとき、妙なコスプレをした男とすれ違ったからだ。まるで、獅子かナマハゲみたいなメイクをして髪を逆立てていた。およそヤクザ映画が似合いそうにない人物だ。もっとも、どんな映画なら似合うのかと訊かれても困るのだが……。二本目がはじまってからも、ぼくはいちばん前に座ったその男が気になってしまい、いつもよりちょっと冷静だったのだ。なお、別の日にマキノ特集に行った友人も、このナマハゲ男を目撃したそうだ。やはりマキノ映画のファンだったのか。ヒトを見かけで判断してはいけない。
2006年2月28日更新
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