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第三十四回『偶然のラッキー。
超懐かしの娯楽活劇、月光仮面をみる。』似顔絵


 ここ四、五年、僕は、レンタルビデオで新作映画もみることが多い。気の合う仲間数人で街に繰り出していた若い頃と違い、どうもあの人込みで賑う映画館へ行くことも面倒臭く、すっかり苦手になってしまったのだ。
 また、最近の映画館の対応は厳しく、肩を凝らせ止めるくらい息を潜めてみなければならない場合もあったりで、自宅で楽々、好きな格好で海苔煎餅やポテトチップスをつまみながらノンビリみれるレンタルビデオ慣れした僕であるが、先日、ロード・オブ・ザ・リングを娘に頼まれ出かけた所、偶然のラッキーでとんでもない品を発見。昭和三十三年東映東京作品「月光仮面映画化シリーズ第一作/魔人(サタン)の爪」である。
 余りにも懐かしく嬉しく、それこそ変色したカセットを手にした瞬間にビビピーッと松田聖子の世界。一気に昇天気分のまま、即レンタル。ウゥーン、マンダムの恍惚感と言うか、見た、見た、見た、見たーッとボイスエコーがかかる程の最近にない僕のワッハッハな出来事だった。

月光仮面

 全身白衣、顔全面白マスクに白縁サングラス。悪人をこらしめ白いマントをなびかせながらオートバイで疾走する月光仮面は、当時、僕たち少年ファンを熱狂させた連続テレビ映画である。あれから四十数年、僕らの青春歌手ユーミンを知らない中学生がいるように、僕たち中高年男性の永遠のスーパーヒーローである月光仮面を言葉でしか知らない若者も多いらしい現在、こんな超ラッキーがあって良いものだろうかと僕など心の中は久々のお祭り騒ぎで半狂乱の大興奮。
 シャーと音が聞こえそうな白黒画面、溜め息が出る程昔と同じである。
 主題歌がバックに流れる中、薄暗い街中をオートバイで走る懐かしい姿にウットリ。ピンチになったら歌と共に、突然それも静かにパッと出てくるタイミング最高、地下室に閉じ込められたまま爆弾が爆発しても絶対死なない不死身の所も拍手物。攫われた松島トモ子を乗せて逃げるサタンの爪一味の車を追いかけ、オートバイに乗ったまま両手をハンドルから離し走りながら拳銃をパンパン撃つ勇姿にはグッと胸が熱くなる。

 初の国産テレビ映画と言われ、月光仮面は最初の頃は毎日十分間の放映だったらしいが、残念ながら僕にその記憶はない。僕の記憶の月光仮面は、週一回、土曜か日曜の六時〜七時の辺での三十分枠で放映されていたように思う。当時、日本中の子供は全員みていたような熱狂振りで、視聴率は七十パーセントくらいあったのではないだろうか。
 ビデオは、僕がみていた連続テレビ映画とは通う劇場公開映画なので祝十郎の大瀬康一も五郎八役の谷幹一も出ないが、月光仮面は月光仮面。それに、相変わらず登場人物になり切って超達者な演技を見せる目玉パチクリ少女の松島トモ子、本当は美人でズーズー弁使いの若水ヤエ子の二人は、僕の世代にはキッチリお馴染みサン。もう懐かしくて思わずニンマリ腕組みの連発。
 確かに、主役の名探偵・祝十郎(月光仮面)が大瀬康一でない所が滅茶苦茶残念と言えば残念ではあるが、やはり何と言っても理屈抜きの娯楽活劇。月光仮面が出ると僕などつい拍手をしてしまう。九歳の手に汗にぎる大決戦は、大昔に熱狂的少年ファンだった中高年の五十五歳でも、口に海苔煎餅で行き成り拍手パチパチパチの大決戦なのである。
 久し振りに良いモノをみせてもらった思いで幸せ一杯の僕だったが、ビデオ入手のラッキーはラッキーで置いておき、今一歩踏み込み図々しく贅沢を言わせてもらえば、連続テレビ映画・月光仮面の最後の巻「マンモス・コングが出現して有楽町か銀座で大暴れすヤツ」を、僕は是非もう一度みてみたい。
 確か、通過する電車を手で叩き折り暴れるマンモス・コングに、駆けつけた月光仮面がオートバイのまま二、三十メートルもの高さにジャンプ。マンモス・コングの肩首に乗るアレである。月光仮面が小さな人形のようにマンモス・コングの肩首に飛び乗ったままブランブラン振り回され、手に汗にぎるヒヤヒヤシーンの連続も連続。だが、何もかも凄かった月光仮面に嵌り込んでいた僕が受けた最大のショックは、あの手に汗にぎるマンモス・コングの巻を最後に、本当に月光仮面が終わったことである。

 ユーミンの歌詞にもある、夢はつかの間だと自分に言い聞かせて、である。夢は永遠には続かない現実、明日からどうしようなんて思いながら、あの時、僕はちょっとした腑抜け状態で暫く過ごした。
 ビル・別荘シーンは勿論、墓場や屋外のシーンでも月光仮面が瞬間移動・ワープするような信じられない現れ方を見せる場面があったし、どんなに至近距離から大勢の拳銃でパンパン撃たれてもかすり傷一つしない所も凄い。オートバイや突然の変身衣装をどこに置いているのか一切不明、想像するだけで怖い高さのマンモス・コングにジャンプして簡単に飛び乗るなど人間技ではない。
 数えあげると切りがない程の不思議を残しどこか曖昧模糊としていながら、凄い凄いと僕を熱狂させた連続テレビ映画のあの懐かしい少年ヒーロー娯楽活劇「月光仮面」をこの歳で再びみれる幸せは、大きい。
 偶然手に入った懐かしさの中で心地よい曖昧模糊の穏やかな渦に巻き込まれながら、僕はテレビの前に。父から譲り受けた僕の自慢の一九八三年製ナショナルカラーテレビTH20-B45VR、二十三年程前の物である。
 「まだ寝ないの」と呆れる家族に取り残されて一人、ソファに体を沈み込ませ海苔煎餅をボリカリ頬ばる。偶然のラッキー、少年ヒーロー娯楽活劇「月光仮面」をみ終えて頬づえをつく僕の中を、懐かしいあのニッカウイスキーのCM「夢であいましょう」が、不思議なくらい緩やかに甘く優しく通り過ぎて行った。


2006年10月12日更新


第三十三回『ポコチンの先に、赤い粒々できてんねん困惑も、包茎モノ的普通の汗疹だったトンちゃんの<性病やろか>事件。』
第三十二回『レトロブームの中の輝き、熟したはしだのりひことロッテ歌のアルバム。』
第三十一回『十九歳の僕、エルトン・ジョンを聴いていた頃。』
第三十回『芸能界情報月刊誌「平凡」と言えば、必見、若い性の悩み相談だった。』
第二十九回『中学生の頃は、東宝。それも<ゴジラ>ではなく、怪奇特撮映画の<マタンゴ>に大痺れ。』
第二十八回『四十年後、「タッチ」のあだち充君からの葉書と武蔵野漫画研究会。』
第二十七回『コタツ台に古毛布とくれば深夜マージャンとなって、どうやろの青春包茎話』
第二十六回『勿論、台は手打ち式。百円玉一枚でも真剣勝負の青春パチンコ。』
第二十五回『生本番ショー二万円への誘いも懐かしい、S荘の質素な青春。』
第二十四回『福チャンの告白。悶絶級・昭和パイプカット秘話。』
第二十三回『スーパーマンと言えば、懐かしい白黒テレビの無敵スーパーマン、ジョージ・リーブスが僕のイチ押し。』
第二十二回『僕の憧れ一九七二年の南極ワイフも、パックリ見せて十五万円也。』
第二十一回『テーブルにココア、今夜はもう一度、ミステリーゾーン気分。』
第二十回『昭和四十六年の白黒ポルノ映画と、露骨裏ビデオ。』
第十九回『青春大ショック、芸能界スター・美容整形の噂を知った日。』
第十八回『当たる不思議「私の秘密」と、死ぬほど笑った「ジェスチャー」の頃。』
第十七回『欧陽菲菲と膀胱炎でヒーヒーの僕と、NHK受信契約騒ぎの日。』
第十六回『微妙にウタマロ、チン長十四センチのセックス満足度』
第十五回『コンドームと僕と、正常位』
第十四回『再会、また一つ。僕のテレビに懐かしの少年ジェットが来た。』
第十三回『ユーミンとセックスと鎌倉、僕の二十七歳の別れ。』
第十ニ回『シロクロ本番写真と五本の指』
第十一回『永遠のオナペット、渥美マリ』
第十回『ジェームズ・ボンドのセックスとナニの話』
第九回『二十一歳の冬、僕とフォークと喪失と。』
第八回『大阪スチャラカ物と言えば、てなもんや三度笠で決まり。』
第七回『嵌った嵌った、森繁の社長シリーズとアレコレ』
第六回『ジュンとネネではなく、VANとJUNの話』
第五回『夏は怪談映画、あの映画看板も僕を呼んでいた。』
第四回『青春マスターベーション』
第三回『ワッチャンの超極太チンポ事件』
第二回『中高年男性、伝説のモッコリ。スーパージャイアンツ』
第一回『トランポリンな僕のこと、少し話しましょうか。』


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