3月某日 関西ノ三都ヲ駆足デ巡リ
「本棚ノアル店」デマドロム事 |
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3月は2回も関西に行った。
ぼくのコレクションを展示する「チェコのマッチラベル展」が、奈良の〈よつばカフェ〉で開催されるので、初日と最終日に立ち会ったのだ。この展覧会、昨年には大阪と東京で開かれ、奈良のあとも金沢に巡回するコトになっている。
〈よつばカフェ〉は、奈良の中心地である「ならまち」の奥のほうにある、古い町家で営業している。1階はカフェで、2階はギャラリーだ。ギャラリーと云っても、四畳半ほどの部屋なので、ヒトの家にお邪魔したようなカンジである。ふたつの壁に展示物をかけ、テーブルには資料本やファイルを置く。そしてぼくは、窓際に机を出してもらって、そこに座っていた。窓からは細い道や家並みが見下ろせて、のんびりできる。最後の日には、雪が降りしきる幻想的な光景にも立ち会えた。あんまり落ち着いていたせいか、展示を見に来てくれたマンガ家のうらたじゅんさんは、ぼくのコトを「まるで、この家に住みついた座敷わらしみたい」に見えると笑った。
ときどき、会場を抜け出して、街を散歩した。何度となく来ているので、もう道を間違うコトはない。〈よつばカフェ〉の近くにある〈酒仙堂〉は、土日と祝日だけ開ける古本屋。なぜかプラモデルも置いてある。髭面のご主人が奥の座敷に座っており、客が来るとお茶や酒を振舞ってくれる。「もちいどの商店街」にある古本屋ともおなじみだ。昨年12月に開店した〈智林堂書店〉も2回目。これらの店を回って、最近ハマっている若竹七海のミステリを何冊か仕入れる。長篇も短篇もじつにウマイひと。旅先で読むのに最適だ。
奈良を基点にして、大阪と京都にも行った。
大阪では、島之内にある〈一色文庫〉という古本屋に寄ったり、〈大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室〉で「前田藤四郎展 版に刻まれた昭和モダニズム」を見たりした。後者では、前田藤四郎が版画制作の傍ら開いていた喫茶店〈エピナール〉の案内状やマッチラベルがとてもヨカッタ。この展示室の近くにあるカステラの〈長崎堂〉では、〈エピナール〉を期間限定で復活させていたのだが、時間がなくて行けなかった。
今回の大阪で、もっとも気に入ったのは、〈大大阪〉だ。大正14年(1925年)、中ノ島に建てられた「ダイビル」(大阪ビルヂィング)という壮麗なビルのなかの喫茶店で、このビルがあと数年で取り壊されることを惜しんだ建築事務所のオーナーが、取り壊しまでの期間限定でオープンしたのだという。入ると、奥の棚には大阪関連の本が展示されている。この棚の本がおもしろくて見入ってしまう。『ダイビル七十五年史』、『まちに住まう 大阪都市住宅史』(平凡社)などを抜き出して、コーヒーを飲みながらパラパラめくった。このビルとこの店が地上から消えてしまう前に、あと何回来られるだろうか?
最後は京都。ここでも本棚のある飲食店に行った。といっても、喫茶店ではなく、「古本バー」だ。四条河原町から南へ、西木屋町通りというとても細い通りにある、〈図書館〉という店だ。日本調の看板が多いナカで、赤い看板がひときわ眼を引く。
まだ入口が閉まっていて前をうろうろしていたら、女性がやってきて鍵を開けた。「図書館のかたですか?」(ヘンな訊き方だけど)を訊ねると、「そうです」と、中に入れてくれた。おお、本当に、昔ながらのバーあるいはスナックだ(行った経験はたいしてないけど)。壁際に本棚があり、そこに文庫や単行本、全集が並んでいる。カバーが外されている本が多いので、女性に理由を訊くと、「外した方がたくさん並ぶかと思って……」と云われた。思ってもみなかった答えだ。ある意味、いまどきの「ブックカフェ」とは正反対にある無造作ぶりが気に入って、ウィスキーを二杯飲んだ。
旅先で古本屋に入るのはもちろん、喫茶店にしても、バーにしても、「本棚のある場所」で時間を過ごす楽しみを知った、今回の関西行きだった。
それにしても、どこのお店でも、オーナーもお客さんも女性ばかりで、男性の影は薄かったなあ……。
2006年4月6日更新
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