第19回 『故郷』
日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『故郷』です。
お盆や正月になると、故郷に帰る人々で鉄道も道路もごった返します。「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川…」と歌われる『故郷』は、そんな人達の心象風景なのでしょうか。以前紹介した「次の世代に残したい”日本のうた・ふるさとのうた”ベスト100」でも、堂々の第2位となっています。(ちなみに1位は『赤とんぼ』)この歌を作詞したのは、高野辰之、作曲したのは岡野貞一、おなじみの小学唱歌コンビです。
『故郷』(『尋常小学唱歌 第六学年用』文部省 大正3年 に発表)
作詞 高野辰之(たかのたつゆき、1876−1947)
作曲 岡野貞一(おかのていいち、1878−1941)
1.兎追ひしかの山
小鮒釣りしかの川
夢は今もめぐりて
忘れがたき故郷
2.如何にいます父母
恙(つつが)なしや友がき
雨に風につけても
思ひいづる故郷
3.こころざしをはたして
いつの日にか帰らん
山はあをき故郷
水は清き故郷 |
高野は『故郷』を作詞するに当たって、故郷の長野県下水内郡豊田村の情景を折り込みました。兎を追った「かの山」は自宅の裏手にあった「大持山」で、小鮒を釣った「かの川」は村内を流れる「斑尾川」だったといわれています。
彼はこの村を出て、東京で奮闘努力し、東京音楽学校の教授になります。『故郷』の2番、3番は、作詞当時の彼の心境が投影していたのかもしれません。その後、高野は大正14年に日本歌謡史で東京帝国大学から文学博士の学位を授与されます。同年、志を果たして帰郷した彼を、村人達は村から4Km離れた替佐駅で出迎えたそうです。
『故郷』の歌碑は、豊田村の旧永田小学校の敷地の一角、「高野辰之記念館」から少し離れたところに立っています。そして、その脇には作曲者の岡野貞一が生まれた鳥取市から贈られた山茶花が植えられています。また、『朧月夜』で紹介した「真宝寺」の辺りには「ふるさと橋」があり、欄干に鉄琴の板が取り付けてあります。これをマレットを使って左から順に叩いていくと、『故郷』のメロディーが演奏できる仕組みになっています。『故郷』の碑をご覧になる際には、是非ともこちらもお試し下さい。
場所:長野県下水内郡豊田村大字永江 旧永田小学校の敷地内(高野辰之記念館そば)
交通:JR飯山線「替佐」駅より長電バス「親川」又は「永田」行きで「永田」バス停下車、徒歩2分。(バスは本数が少ないので注意。徒歩だと駅から1時間)
※「ふるさと橋」は、「永田」バス停より徒歩8分。
2004年6月25日更新
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