第25回「雑草が遊び道具だったころ」の巻
秋は子どもたちが遊ぶ雑草や花がたくさん生い茂る季節だ。 【ネコジャラシ】という野草は、田んぼのそばにフサフサの穂をつけて生えていた。これはエノコログサともいい、手折って、穂で友達の鼻の下などをくすぐったりして“痛がゆさ”を与えた。 ネコジャラシを片手で軽く握った拳のなかに、毛が生えている方向に逆らいながら入れる。全体を揉むように動かすと、逆毛の作用で上のほうにのぼっていく。「ほら、毛虫だー!」と低学年の子に見せて、驚くさまをながめると手品師になったような気がしたものだ。
「この柔らかいトゲトゲがくすぐったい」
こういう実演系のものだと【ひっつき虫】(地域によっては「くっつき虫」と呼ぶことも)もある。オナモミやセンダングサなどの植物の実の俗称で、種子の表面に鉤や針がある。この実をとってセーターなどに投げるとひっつくので、背中に大量につけて歩いている子が見られた(今なら、いじめと思われてしまうかもしれませんな)。
「ちょこんと放り投げるだけで、よくくっつく」
お彼岸の時期には必ず、紅色の【曼珠沙華】が畑のわきなどに咲き乱れた。曼珠沙華などというと素敵な花のように聞こえるが、彼岸花のことである。赤い色が血を連想させるのか(白いのもあります)、不吉な花として「毒があるから触ってはいけない」などと昔から戒められていた。だからきれいだとは思っても、花を摘んで教室の教卓にある花瓶に生けようとするヤツは1人もいなかった。
夕方になると【オシロイバナ】が、黄や紫など色とりどりのラッパ型の花を咲かせていた。花がつぼみ、種になると黒い皮の下に白い実があってそれが“おしろい”を連想させる。当時は制汗スプレーがない時代だったので、「あせしらず」「天花粉」とも呼ばれた。 おしろい(実際に肌をはたく商品は「ベビーパウダー」ね)を風呂あがりや床屋帰りに、首筋・わきの下にはたくのは当たり前だった。……というか、昔の床屋さんは必ずはたいてくれたような気がする。刈り上げ頭が多かったからだろうか。
昭和40年代の秋に猛繁殖していたのが【セイタカアワダチソウ】である。他の植物を根絶やしにするし、花粉症の原因になるなど悪い評判が立っていた。この草が枯れるとポキポキと折れやすいので、子どもにとってはちょうどいい軽さになって、秘密基地の屋根や壁の材料となった。あれだけ群生していたのに今ではあまり見ることがない。不思議だ。
また、道端に【ススキ】が出てくると、夏休みの続きの時間は終わり、十五夜の月見の行事を予感させた。虫の声とともに、秋を感じさせる象徴的な野草だったといえよう。
「電車にあおられて揺れるススキ+雑草群なのだ」
2009年10月30日更新
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