その31−ドジョウ
水槽の中に泥がたまっています。中の魚が死んでしまったの
かなあ、と顔を近づけてみると、泥の中から懐かしいひげ面
が。お久しぶりです、ドジョウさん。
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ドジョウなんて魚は水田の泥底に普通にいた。
学校帰りによく裸足で田んぼに入り捕まえたものだ。
両手をそっと水に差し込み、じわりじわりと間を狭める。
よしいまだ! と一気にすくいあげようとする瞬間、
ドジョウはさっと身を翻して泥の中に潜ってしまう。
巻きあげられた泥で水がにごって見失っている間に、
獲物はまんまと逃げおおすのだった。
それでも少年漁師はあきらめなかった。
何回か繰り返すうちに獲物を掌でとらえることができた。
実はここから先が本当の勝負なのだ。
ドジョウはぬるぬると体がすべる。
しっかり握ったつもりが指の間からつるりと逃げる。
水に落ちる前にもう一方の掌で受け止めるが、
ここでもするりとたくみに身をよじる。
そんな具合でどうにかドジョウ一匹を捕まえたときには
手足は泥だらけで、服にも泥はねがついている始末。
それは壮絶な戦いの輝かしい勲章だった。
ドジョウは飼うのが難しかったから、
あばよ! と田んぼに戻してから夕焼けの家路を急いだ。
子供心にキャッチアンドリリースを知っていたのだ。
ドジョウはまるでウナギの子分のように思われがちだが、
分類上はかなり違っている。
ドジョウはコイ目ドジョウ科の魚なのに対して、
ウナギはウナギ目ウナギ科の魚である。
大雑把にいえばドジョウはウナギよりもコイやフナに近い。
たとえ体が細長く、表面がねばねばしていようとも、
ふたつに割かれて、日本料理の材料にされようとも、
ドジョウをウナギの親戚扱いしてはいけない。
ドジョウ料理といえば柳川鍋がその代表である。
ささがきゴボウと一緒に割下で煮て卵でとじる。
夏バテ予防に効きそうな美味な料理であるが、
ここでもドジョウはウナギと混同されている気がする。
柳川といえば、北原白秋で有名な福岡県の水郷であるが、
ここの名物はドジョウではなく筑後川育ちのウナギなのだ。
柳川は九州を代表するウナギの産地なのに、
なぜ柳川鍋といえばドジョウなのだろう?
実は天保年間に江戸でどぜう鍋を売り出し広めたのが
柳川屋という店だったらしい。
柳川鍋はその料理を考案した店の屋号に由来しており、
地名の柳川とはまるで関係なかったわけだ。
ドジョウ料理で名のみ有名なのが、どじょう地獄。
なんでも生きたドジョウ数匹と豆腐を火にかけるだけとか。
水温があがって耐えられなくなったドジョウは
より温度の低い豆腐の中に潜り込んでいき、
その中でじわじわと蒸しあげられる趣向らしい。
…って、本当にこんな料理が存在するのだろうか。
そもそもドジョウ入りの湯豆腐がおいしいのだろうか?
現在でこそ、ドジョウは食用に養殖されて清潔であるが、
昔は天然物だったろうから、泥を吐かせるだけでひと苦労。
生きたままの調理には向かない食材だったに違いない。
ひと昔前ですら柳の下に二匹目はいなかった天然ドジョウは、
近年は農薬のおかげで一匹探すのも難しくなってきている。
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【ドジョウ】
日本全国に分布するコイ目ドジョウ科の淡水魚。全長10〜15cm。
口の周りに10本あるひげで食物を探す。ユスリカの幼虫などを好
むが雑食性。
ドジョウの写真は、「どじょううぇぶ」の今井さまよりお借りしました。
「どじょううぇぶ」
http://www.dojoweb.net/
2006年6月14日更新
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