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「蕩尽日録」タイトル


7月某日 
有楽町ノ変貌ニ驚キ、
銀座ノ百貨店デ古本ヲ売ル事
南陀楼綾繁


 数カ月前、有楽町駅を出て、何気なく前を見てビックリした。〈有楽町マリオン〉の姿が真正面に見えたからだ。有楽町駅とマリオンの間は、ひどく狭い道でつながれていた。その左側(交通会館の向いの一角)に集中している小さな建物にさえぎられて、マリオンは上部しか見えなかった。それが上から下までぜんぶ見える。魔法で目の前のモノが消え去ったかのようなフシギな感じだった。

有楽町駅とマリオンの間の更地 

 このエリアが更地になったのは、昨年の秋頃。駅を出て道を渡った角の立ち食いそば屋や、レストラン〈レバンテ〉がいつの間にかなくなっていた。その後しばらく、巨大な囲いで隠されていたのだが、最近になって本格的に工事がはじまり、囲いが外された。それにより、消えた地帯がいかに広大だったかというコトを実感した。

 この一帯は、古ぼけたビルや小さな飲み屋、喫茶店などがひしめきあっており、いまだに戦後の東京というカンジが残っていた。小ぎれいな銀座を歩いた後、この辺りの路地に戻ってくると、なんとなく落ち着くのであった。〈レバンテ〉には2回しか入ってないのだが、松本清張の『点と線』にチラッと使われていたり、丹羽文雄が中心となった「十五日会」という文学者の集まりの会場になったりしたと、何かで読んで知っていた(同店は「東京国際フォーラム」内に移転して営業している)。

 ウェブで「有楽町駅前第1地区第一種市街地再開発事業(東京都千代田区)」の計画書が公開されている(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/
cpproject/field/yurakucho/saikaihatsu6.html)が、その概要にはこうあった。「本地区は、都心でも有数の商業業務地であるが、現状の土地利用は細分化され、低層木造建築物が密集している。このため、土地の合理的かつ健全な高度利用による防災性の向上と、都心に相応しい都市機能の更新を目的として、市街地再開発事業により商業と業務を中心とした複合ビルと、駅前広場(地上・地下)や道路(地上・地下)を一体的に整備する」……。〈丸井〉などの大手ショップやオフィスが、ココに入ることになっているのだとか。自分たちの眼が行き届かない「低層木造建築物」を排除して、上から下まで一括してコントロールできる高層ビルをつくることが、「土地の合理的かつ健全な高度利用」なんだってさ。ちゃんちゃらオカシイね。

 すでに杭打ちがはじまっているそのエリアを横目で見ながら、銀座四丁目の交差点へ。コアビルの中にある〈ブックファースト銀座店〉で、平井隆太郎『うつし世の乱歩 父・江戸川乱歩の憶い出』(河出書房新社)、小松左京+谷甲州『日本沈没 第二部』(小学館)、宮沢章夫『「80年代地下文化論」講義』(白夜書房)を買う。『日本沈没』は映画の公開に合わせて、続編やらマンガ化(『ビッグコミック・スピリッツ』。かなり面白い)がされている。

 スグ先の松坂屋へ。ここの催場で、いま、「銀座ブックバザール」という古本市をやっているのだ。昨年末に第一回が行なわれ、今回が二回目だ。この古本市では、プロの古本屋だけでなく、ぼくのようなシロウトの本好きや、オンライン古書店の人たちが「賛助会員」として参加している。ぼくはヨメと一緒に「南陀楼綾繁&内澤旬子」として参加。部屋の中に積み重なっている本や雑誌、CDなどを一掃すべく、「売れるモノならナンでも売ります」という姿勢で臨んだ。ただし、今回は準備時間が短かったため、トランクに詰めて何度か運んだにもかかわらず、われわれに与えられたブース(けっこう広い)を埋め尽くすコトはできなかった。だから、充分な売り上げがあったとは云えないが、それでも銀座のど真ん中にある老舗百貨店で「本屋さんごっこ」ができるのは楽しかった。

「銀座ブックバザール」

「南陀楼綾繁&内澤旬子」

 有楽町まで戻り、かろうじて再開発を免れた一角にある〈中園亭〉へ。ここも「昭和」の匂いのする中華料理屋で、メニューが豊富でどれも美味しい。今日は鳥そばを食べる。10年ほど前であれば、この店の裏手にあった純喫茶〈白鳥〉に行っていたトコロだが、すでに消えている。近くにある今風のキャッシュオンデリバリーのカフェでコーヒーを飲み、山手線でウチに帰った。

〈中園亭〉


2006年8月22日更新
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4月某日 金ナシ地位ナシ之誕生日ニ地元ノ古本屋ヲ回ル事
3月某日 関西ノ三都ヲ駆足デ巡リ「本棚ノアル店」デマドロム事
2月某日 池袋ノ「本すぽっと」ヲ周遊シ、〈新文芸座〉ニテ怪シゲナ人物ニ会フ事
1月某日 浅草ニテ往時ノ繁栄ヲ幻視シ古本市デ大物ヲ得ル事
12月某日 品川・馬込ノ古本屋ヲ散策シ、早稲田ノらいぶはうすニ至ル事
11月某日 神田錦町ノ名出版社ヲ偲ビ、定食ヲ喰フ事
10月某日 文化祭ノ中心デ「ホン、ホン、ホン」ト叫ブ事
9月某日 広尾デ古本、恵比寿デちぇこ映画、意外ナ組合セを楽シム事
8月某日 自転車ニテ出カケ、南千住デ「小松崎茂」ニ会フ事
10月某日 逗子カラ鎌倉マデ古本マミレノ小旅行ヲスル事
10月某日 北京カラノ賓客ト神保町古書店ヲ散歩スル事
9月某日 【海外篇】ばり島デモ本ノアル場所ヲ求メテ彷徨スル事
8月某日 千駄木ニテ「もくろークン大感謝祭」ヲ執リ行フ事
6月某日 本ノ街・神保町ノ「本丸」デ古本ヲ熱苦シク語ル事
5月某日 北千住カラ入谷マデ日比谷線沿ヒヲ飲ミ歩ク事
4月某日 経堂デ「本之工藝」ニ触レ、田端新町デ「モツ焼」ニ溺レル事
3月某日 渋谷ノ夜、音楽デ体ヲ埋メ尽ス事
2月某日 初心ニ戻リ神保町ヲ回遊スル事
1月某日 渋谷カラ三軒茶屋マデ「本尽クシ」ノ一日ヲ送ル事
12月某日 讃岐高松ニ飛ビ「ウドン」漬ノ三日ヲ過ス事
11月某日 びっぐさいとデ「表現欲」ニツイテ考エル事
11月某日 三鷹ノ古本屋ニテ奇妙ナ本ト出会フ事
10月某日 谷中ニテ芸術散歩ヲ愉シミ、浅草デ「えのけん」ヲ想フ事
9月某日 新宿デ革命ノ熱気ヲ感ジ高円寺デ戦後ヲ思フ事
8月某日 一駅一時間ノ旅ヲ志シ中板橋デ「ヘソ踊リ」ニ出会ウ事
6月某日 上野ノ森ニテじゃずヲ堪能シ鶯谷ニテほっぴーニ耽溺スル事
5月某日 谷中ノ「隠レ処」カラ出デテ千石ノ映画館ニ到ル事
2月某日 ばすニ乗リ池袋ヲ訪レテ日曜ノ街デ買物シマクル事
12月某日 荻窪及ビ西荻窪ヲ訪レテ此ノ街ノ面白ヲ再認識スル事
12月某日 大学図書館ノ書庫ニ潜リ早稲田古書街デ歓談スル事
12月某日 六本木カラ高円寺マデ本ヲ求メテ一日旅行スル事【後編】
12月某日 六本木カラ高円寺マデ本ヲ求メテ一日旅行スル事【前編】
11月某日 晩秋ノ銀座デ裏通ヲ歩キ昔ノ雑誌ニ読ミ耽ル事
11月某日 秋晴ノ鎌倉ヲ優雅ナ一日ヲ過スモ結局何時モ通リトナル事
9月某日 渋谷カラ表参道マデ御洒落ノ街ヲ本ヲ抱エテ長征スル事
9月某日 小淵沢ノ夢幻境ニ遊ビ甲府ノ古本屋ニ安堵スル事
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【後編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【中編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【前編】
7月某日 炎天下中ニ古書店ヲ巡リ、仏蘭西料理ニ舌鼓ヲ打ツ事
6月某日 W杯ノ喧騒ヲ避ケ、三ノ輪ノ路地ニ沈殿スル事
6月某日 昼ハ最高学府ニテみにこみノ販売法ヲ講ジ、夜ハ趣味話ニ相興ジル事
5月某日 六本木ニテ「缶詰」ニ感涙シ、有楽町ニテ「金大中」ニ戦(オノノ)ク事
4月某日 徹夜明ケニテ池袋ヘ出、ツガヒ之生態ヲ観察スル事
4月某日 電脳機械ヲ購入スルモ気分高揚セザル事


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