知人の会社でお茶を飲んでいたら、グリコの人がやって来ました。馴染みの様子で部屋の奥まで入っていくと、棚の上に置いてある小さなカエルのひきだしを覗いて、お菓子の補充とお金の回収をしています。そうです。『グリコの置き菓子』こと『オフィス・グリコ』です。ひとつ100円の手軽さと、補充&集金をしてくれる便利さで、いろんな会社に置いてあるのでしょうね。
そんな様子を見ていたら、子供時分に富山の薬売りのおじさんが、薬の補充に来てくれた様子を思い出しました。確か年に一度、私の両親用と祖母用の薬箱が、富山のおじさんの前に差し出され、色とりどりのパッケージをした薬たちが補充されたのです。真っ赤な薬箱の中に整理整頓されて並ぶ薬たちは、病気の時に飲むものなのに、なんだか楽しげに見えたから不思議です。風邪気味とかお腹を壊したなど、ちょっぴり具合いが悪い時に、ずいぶんとお世話になりました。また、おじさんがくれる紙風船などのお土産も印象に残っています。
でも、よく考えてみたら、富山の薬屋さんが来る日にちというのは、どうやって決めていたのでしょう。電話で「明日伺います」なんて、営業っぽい連絡があったようには思えませんし、いらっしゃった時に、次回の日にちを決めていったのでしょうか(それも1年後の?)。当時の祖母が手帳を持っているはずもなく(日記はつけていたけど)、たぶん“来年のこの頃”って、おおまかに時期が決まっていたのではないでしょうか。思えば、祖母が1日中家をあけるなんてことはありませんから、いつ来てもよかったのでしょう。フラッと誰かが訪ねて来ても、すんなり受け入れられる生活。今のわが身に置き換えてみると、なかなかできそうにない生活でもあります。
そんな思い出のある薬箱。
何個かわが家にいます。もちろん薬が入っているわけではありません。薬といえば、私自身が飲むのは頭痛薬のノーシンくらいで、病気になったら、すぐに病院に行くようにしていますし、だいたい東京に住んでいると、ドラックストアはとてもたくさんありますから、薬箱に常時薬を入れて置かなくても、なんとかなってしまうのでした。そんな便利な今日の生活の中で、わが家には昔の薬箱たちが本棚の上にデンッと積まれています。案外丈夫なので積み上げられるのです。色もカラフルで可愛らしく、コレクションを入れるひきだしとして活躍しているのでした。
そして、これらの薬箱は単なる容器ではなく宣伝も兼ねていますから、箱のまわりには薬の商品名をはじめ、縁起物の達磨や、健康者の象徴としてのお相撲さんなどが描かれており、全体のデザインもインパクトがあるので、見ているだけで楽しいのです。そんな薬箱たちをボーッと眺めていたら、なんだか熊手や破魔矢など神社でいただくものに通じる縁起物のような気すらしてきました。昔の人の知恵や「家庭円満」の文字から、“願い”みたいなものが伝わってくるからです。右から読んでも左から読んでも「よくきくよ」にはじまり、「健康を大切にして家庭円満!」なんて、気持ちの中では思っていても、このような文字がはっきりと書いてあるものを部屋に飾るということは、現代の生活の中では、なかなかないような気がするからです。
2008年1月30日更新
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