その33−キツネ
暗がりからコンコンという声がします。
隅っこで誰かが咳き込んでいるのでしょうか?
近づいてみると和装の女性が……でも、尻尾が生えてる!
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キツネは化けるのが上手である。
特に女性に化けるのが得意である。
しかも困ったことに美女に化けるのである。
したがって、世の愚かな男どもは手もなく騙される。
騙されて、あとで泣きを見るはめになる。
所持金も荷物も奪われて、仕舞いにゃ服まで持ってかれて、
裸ひとつで表に放り出されるはめになる。
気をつけたほうがよい。
得体の知れぬ風俗街で出会う妖しい女性はたいがいキツネだ。
きつね目で鼻先が尖っていれば十中八九キツネだ。
化けるのはキツネの雄か雌かという議論がある。
なんとなく雌が化けると思い込んでいる人が多いのは、
女狐(めぎつね)という卑称によるものだろう。
ご承知の通り、女狐というのは男癖の悪い女性のことであり、
里山に住むキツネとはなんの関係もない。
古狸がタヌキではなく人を指すのと同様、女狐も人だ。
では、元に戻って、化けるのはキツネの雄か雌か?
古狐なら雌雄の別なく化ける、というのが正解である。
間違わないようにして欲しい。
ここでいう古狐とは、古狸と同じではなく歳を経たキツネだ。
キツネは歳をとるごとに霊力を増すという。
この獣、案外若いうちは愛嬌に富んでいる。
新美南吉が「ごんきつね」に抜擢したり、
イソップが「きつねとつる」で起用したのがそんなキツネだ。
成長するにしたがって妖怪じみた力を持つようになる。
その代表が九尾の狐であり、化けるのもこのころだ。
狐火も狐憑きもそんな古狐の霊力の一端にすぎない。
さらに選ばれたキツネだけが長寿を与えられ、
やがて神の使いとして崇められることになる。
稲荷神社の赤い鳥居の両脇に向かい合って座っていたりする。
勘違いしやすいが、稲荷信仰においてキツネは神ではない。
神は五穀豊穣を司る宇賀御魂命(うかのみたまのみこと)である。
この神、別称を御饌津神(みけつかみ)といい、
これが書き誤られ三狐神と伝えられたがために、
まるで狐こそが偉い神様ように思われてしまったのである。
ミス発覚後は仕方ないので狐を神の使いとして奉ることにした。
であるからキツネは神ではない。あくまで神の使いなのだ。
だからといってキツネが偉くないわけではない。
神の使いなのだから、イエス・キリストくらいには偉い。
それは言いすぎだとしても、神社の宮司くらいには偉い。
偉いキツネには時折供え物くらいしていただきたい。
キツネが好きなものは言わずと知れたお稲荷さんである。
若いやんちゃなキツネはネズミやウサギが好きだが、
神の使いへとのぼりつめたキツネは稲荷ずしが好物なのだ。
長じて霊力を持つキツネは人を脅かすのが好きだが、
神社の鳥居のそばに住まうキツネは稲荷ずしで満足なのだ。
なので、たまに気が向いたときにはお稲荷さんを捧げて欲しい。
注意してもらいたいのは、稲荷ずしは包んで供えること。
でないと空からトンビに油揚げさらわれて、酢飯しか残らない。
キツネも狐につままれたような顔になってしまうに違いない。
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【キツネ】
食肉目の哺乳動物で、日本を含む北半球の大部分にはアカギツネが
生息している。日本のアカギツネはふたつの亜種に分けられ、北海
道のものがキタキツネ、それ以外のものがホンドギツネと呼ばれる。
※画像提供…アカデミア青木氏・みゆみ店長
2007年3月30日更新
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