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「ガラクタ商店街」タイトル

その78
“タンク式洗濯器”と向田邦子さん
 を真似て古い小鉢を買うの巻

弓屋かえる堂さえきあすか


 最近私のまわりで向田邦子さんがブームです。上司が、すごくおもしろいと話しはじめたのがキッカケで、会うたびに楽しそうに話されるので、私の今のテーマでもある暮らしについて書かれた、『向田邦子 暮しの愉しみ』(向田邦子・向田和子著 新潮社刊)を買ってみることにしました。

向田邦子さんの書籍
「向田邦子さんの書籍」

 ページをひらくと、向田さんが古いお気に入りの器に得意の料理を盛っているお話から、簡単で美味しい家庭料理の紹介。東京美術倶楽部で真剣にモノと向き合う様子。一目惚れした絵画や大好きな猫たち…などなど、お気に入りに囲まれての暮らしがステキに紹介されていました。部屋の端々に積み上げられた書籍や壺、パソコンのない机の上には紙類が山積。なんとも私好みのお部屋に、最近抑えていた物欲がフツフツと湧いてきます。モノクロ写真の向田さんは、シンプルで上品な服装にコインの指輪がカッコよく、私もコインの指輪が欲しくなりました。それと同時に、向田さんが今の時代に生きておられたら、パソコンや携帯電話とどうつきあわれただろう、今の時代をドラマでどう表現されただろう、と思い、残念な気持ちでいっぱいになりました。

 私が以前勤めていた会社では、美術書を発行していたことから、陶芸作家の先生方がつくられた器や、ギャラリーや骨董屋さん、東京美術倶楽部にも縁がありました。ギャラリーといえば余談になりますが、“しぶや黒田陶苑”さんには、備前焼の魅力を教えてもらったっけ。いまだに展示会の案内を送っていただいてますが、なかなか伺えず申し訳ない気持ちでいっぱいです。黒田陶苑さんで扱っておられる器は、まだまだ未熟な私には近づけそうにないのです。
 話を戻しまして、そんな社内では先輩方がうっとり眺める器を横目に見る機会がたくさんあり、購入する機会もあったわけで、今にして思うと当時購入した作家物の器たちは、ずいぶんと背伸びをして買ったなぁと思います。もちろん「いいな」と思って手に入れたには違いないのですが、なんせ20代の眼です。そこは若さというか、私の性格のあさましさというか、いつか値段が上ったらいいなとか、小さい器より大きい器のほうが得だと思い、当時は料理なんて、ほとんどつくっていませんから、求めた動機が不純なのです。なので、わが家の食器棚には使わない作家物の大皿が何枚も鎮座している始末。それは古い器でも同じで、大きいのが得、あと安いから得という理由で、つれて帰ったお皿が結構あります。そんな大皿たちは、料理用ではなくて、テーブルの中央にデンッと飾りたいとか、棚の上に飾り皿として置きたいとか、購入した当初はいろいろな使い道を思い描いていたのですが、住居はそうそう広くはなりません。そうこうしているうちに、この数年で私の食事の出し方が、木のお盆に小さい器を数個並べるというパターンに定着し、このリズムが心地よくなってきた今日、大皿を使う機会はますます遠退いていきました。
 「そろそろ器の見直しをしようかな?」
 そう思っていた矢先でした。向田邦子さんの暮らしぶりは、キラキラと輝いて飛び込んできてくれたのです。書籍の中で向田さんの蒐集された器について語っておられる西荻の“魯山”さんも、ずいぶんと行っていませんが、読んでいたら行きたくなりました。下手であれなんであれ定期的に料理もつくるようになった今なら、当時と違う目線で、素直に器を選べると思うのです。

 10月18日第3土曜日のこと。神奈川県大和市へ行きました。目的は毎度のごとく“方位とり”と、調べたいことがあって出かけたのですが、駅を降りたとたん“大和プロムナード古民具骨董市”の幟がたくさん立っていたのでビックリ! 大和市で骨董市を開催していることは知っていましたが、まさか今日だったとは! 目的も忘れてワクワクしながら会場をまわりました。ひさしぶりに行った骨董市で、まずもって思ったのは、全体的に値段が下がったことです。古伊万里など陶磁器を専門に販売しておられる業者さんは、
「世界的な不況もあるけど、テレビの鑑定団がはじまる前が一番高かったね。あの頃から比べると、ずいぶん下がったよ」
 とため息まじりに話されました。私好みのガラクタ(?)を扱っておられるお店もありましたが、やっぱり値段が下がっています。戦前の実用品は需要がなくなっているのでしょうか? 以前はコレクターの先輩方に、
「お金で買えるならまだいいんだよ。モノもでてこなくなると買えないんだから」といわれ、一期一会の出会いを大切にするように教えられたものですが、状態のいい戦前のガラクタたちが、2割から3割くらい安く並んでいる様子を眺めていたら、時代の流れが早い今日について考えてしまいました。

タンク式洗濯器
「タンク式洗濯器」

 さて、そこで買ったモノは『タンク式洗濯器』です。陶製です。その17で、木製の『ローラー洗濯器』をご紹介しましたが、その陶製版といいましょうか、似たような代物です。ただし、タンク式洗濯器にはローラーはついておらず、タンク部分に石鹸か粉石鹸を入れ、取っ手を持って前後に揺らし、押し洗いをする洗濯器なのでした(詳しくは説明書参照)。元箱と説明書付きで、とても嬉しい出会いです。けれど、こんな洗濯器が戦前にあったことすら忘れ去られていくのでしょう(すでに知らない人が大半ですね)。

タンク式洗濯器 説明書
「タンク式洗濯器 説明書」

 そして、向田邦子さんを真似て小鉢を求めました。実は絵柄のおもしろさでお皿を集めてきたせいか、気がつくと同サイズの印判のお皿が多く、古い小鉢がないことに気づいたのです。今回出会ったのは美しい染付の小鉢です。幕末の器なんですって。う〜む。自宅の食卓で幕末。なんだか、とってもロマンチックでぜいたくな気分です。以前は模様のはっきりした印判が大好きでしたが、年齢を重ねたせいでしょうか。染付の色合いに惹かれる今日この頃。さっそく今夜から使いたいと思います。

大和骨董市からきた染付の小鉢
「大和骨董市からきた染付の小鉢」

オマケ “アンティークモール銀座”から色絵の小鉢もやってきました。明治時代の器だそうです。使いやすい大きさで、カラフルな色合いが地味な料理も美味しそうに盛り立ててくれます。

アンティークモール銀座からきた小鉢
「アンティークモール銀座からきた小鉢」



2008年 10月 29日更新
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