第31回 昨日今日明日変わり行く轍 軍都物語in赤羽〜愉快なロンロン麺 |
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前回に続いて申し訳ないが、年2回、盆と暮れに私の発行するミニコミ誌の最新刊が完成した(詳細は文末のお知らせへ)。初売りは12/31というトンでもない日に開催される東京ビッグサイトのコミックマーケット77なのだが、このイベント限定で毎回手製の中綴じ本を出している。
今回は06年夏に出した戦争遺跡の食べ歩き本で取りこぼした赤羽の穴埋め企画。当時はまだ飲み屋スキルが低かったが、この3年で回ることのできた大衆酒場や団地群を巡る内容になっている。
その中から1部、軍用引込み線跡を紹介したい。またまた鉄分が濃くなってしまった(苦笑)
東京都北区赤羽。「まるます家」「いこい」「米山」等々、通好みの大衆酒場の聖地というイメージが強い、指折りのディープエリアだが、もうひとつ、自分にとっては団地が思い浮かぶ。赤羽台・桐ヶ丘とその周辺で形成される一大マンモス団地群だ。団地については追々詳しく取り上げるとして、今回はこの団地ができる前まで遡ってみる。
赤羽は東京屈指の軍都と呼ばれ、広大な敷地にあった軍用地は現在さまざまな施設に転用されている。これら陸軍施設を結ぶ軍用特殊鉄道線(通称・引込線)の跡があるというので行ってきた。
JR赤羽駅からも行けるが今回は東京メトロ南北線赤羽岩淵駅からスタート。というのも、駅出てすぐのところに、なんとも鼻腔をくすぐる芳醇な香り漂わすラーメン屋があるからだ。
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龍龍(ロンロン)
11:45〜13:30/18:00〜03:30
日曜夜の部のみ休
東京都北区赤羽1-58-12
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バラック小屋のようなイカす佇まい。北本通りと環八が交錯する地点だけあって、ドライバー向けの夜な夜な食べたくなりそうな、こってり味。以前は夜の部のみの営業だったと記憶しているが、昼からも食べることができ、ご飯ものやトッピングなども充実している。
しょう油とんこつ¥600はコチラの売りである豚骨スープをベースに醤油を効かせ食べやすくしたもの。豚骨のマイルドさと醤油の辛みのバランスが絶妙で、10年程前に流行った、いわゆる環七などの街道沿いに出来た有象無象の豚骨醤油ラーメンと一緒くたにされがちなのが残念だ。奇を衒った具材などないシンプルさで、目を引く要素は少ないが、故にじっくり出たダシが堪能できる。
龍龍の並びには古い民家が立ち並んでいる。道路に面した正面(ファザード)だけ一際高くモルタルが盛られた建築で、恐らく通り沿いに商店が並んでいたころの名残だろう。
蔦が異様なほど絡まった家やタイル張りの見事な美容室もある。
これらを眺めているとすぐにJRの高架下にぶつかる。
潜ると右手にビヤーっと急勾配の坂が延びている。殆ど山だ。山頂に位置する星美学園へと至るこの師団坂は、その名の通り、帝国陸軍第一師団工兵第一大隊(現・星美学園)へ至る坂として名づけられた。この手の山には神社があるのが相場で、八幡神社の鳥居から、赤羽に点在した陸軍施設を結ぶ軍用特殊鉄道線(通称・引込線)の跡がスタートしている。
嘗ては砂利道で廃線趣味漂ういい塩梅だったがだいぶ宅地整備が進んでいた。
遊歩道かなにかの造成中なのだろう、嘗ての草ボーボーの土地はフェンスで覆われ重機が稼動している。フェンス内にプレートが立っており、みると東京都の所有地となっている。
この先に既に整備されている遊歩道の入口が見えた。
北区立赤羽緑道公園と命名されており、一応歩道の一部は線路を模している。
しかし廃線跡を証明する遺構という遺構は残っていないのだが、周囲の物件と見渡せば、おおっ、緑の狭間からヤレたトタンがいい感じに葺いている平屋建の工場や民家が窺える。
足元の舗装を見るとゲンナリするので、周囲をキョロキョロ見渡しながら歩くと、なんとなくだがこの土地の本来の空気が感じられなくもない。
暫くすると、所々黒ずんだ灰色の石垣のような物体が登場。
こりゃ遂に遺構か!?と思いきや、赤羽駅西口から伸びる道路を跨ぐ歩道橋だった。しかしこの歩道橋、ムダにしっかりしたつくりで、石積みの上がレンガになっている。表面だけ張ったテクスチャーのみかもしれないが、なかなか圧迫感があり、手摺りの鉄柵にはここを走っていただろう軽便鉄道(トロッコ)の車輪がかたどられてもいる。
歩道橋を渡ると、幾重にも連なる団地が一望できる。今いる場所は赤羽台団地北側に沿い、緑道はこの先桐ヶ丘団地を突っ切る。
赤羽台団地は被服本廠、桐ヶ丘の方は火薬庫と大まかに分類できる。目の前に広がっているのが火薬庫だったかと想像するだにゾゾっとくるものがある。
途中児童遊具施設だろう、なんでかSLを模した木のオブジェや藤棚的な花壇になると思しき鉄柵が錆び付き放置状態になっている。
暫くするとまた緑の間に民家が見えてきて、錆びトタンの納屋やバラック小屋まであった。こりゃ錆びマニアには恰好の舗道だな。
ここで再び歩道橋。今度は鉄筋の一般的なものだが、ここでもまだ桐ヶ丘団地は終わらず、Eブロックの団地が延々続いている。
駅寄りの方角を望むと、新たなURの公団住宅が建設中だ。
最近のはURでも家賃も高いし、そこいらのマンションと大差ない。嘗ての住宅不足を解決するためにフォーマット化された団地の様式美は微塵も感じられない。
ここを過ぎると比較的新しめの低層のアパートが続き、嘗て引込線に架かっていた鉄橋のモニュメントを過ぎると、赤羽自然観察園に突き当たり、廃線跡は終わる。
観察園とその先、国立スポーツ科学センターまでは兵器庫が続いていたが今は見る影もない。
来た廃線跡を引き返し、赤羽岩淵駅に着く頃にはもう日が暮れていた。辺りが闇に包まれる中、煌々と輝くのはやはり龍龍の看板。カウンターのみ7人分程度、しかも立ち食いなので自然と片寄せあう感じになるが、寒い冬にこうして手繰るラーメンというのは格別なものだ。それが車の往来をバックに啜る街道沿いの王道ラーメンとなるとまたグッと旨く感じる・・・ってまた食うんかい!?
今度は店の名を冠した龍龍麺¥600。
夜の部は白熱灯の明かりが少ししかない屋台チックな店内になるので、写真が鮮明に撮れず申し訳ない。
ここの豚骨スープを100%味わいためのメニュー。白い白湯スープに平打ちのピロピロ麺が泳ぐ。ここのラーメンは分量が少なく、まさに酒場天国赤羽で飲んだ後に打って付け。サッとヤッつけて店を後にする。
夜になると格段に店周辺が豚骨臭くなる気がする。近隣の方は大丈夫なのか心配してしまうほどだが、服に臭いが染み付きやしないかチョット心配しながら車の脇を歩く快楽が、この辺にはまだ残っているのだった。
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