12月某日 自転車デ目白・池袋・雑司ヶ谷ヲ回リ、「坂道ノ東京」ヲ確認スル事 |
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ある日の昼、千駄木の喫茶店でヒトと会った。打ち合わせを終えると、目白に行かねばならない。そのあと池袋にも行くつもりだ。どう動こうか、電車かバスか……と考えているウチに、だんだん面倒くさくなってきた。「いっそ自転車で行ってしまえ!」。幸い、今日はイイ天気で、風もそれほど強くない。喫茶店の前で自転車に乗り、急勾配の団子坂を白山に向かって登りはじめた。
白山下を東洋大学の方向に曲り、千石を通り、巣鴨へ。とげぬき地蔵通りを抜ける。この辺までは自転車で来たことがあるが、この先は未体験ゾーン。しばらく走ると、大きな交差点に出る。上に高速が走っている。おお、池袋だ。サンシャイン通りを横切る。ふだん、徒歩でしか接してない街を自転車で走ると、視点が微妙に変わってオモシロイ。
〈ジュンク堂書店〉の前を右折。東口に続くガードを抜ける。コレは「ビックリガード」という妙な名前で知られている。見た目はふつうに車が通行するガードで、なぜ「ビックリ」なのかよくワカラン。【注】その先の大通りを左折すると、目白に入る。この辺りは静かな住宅街で、大きなお屋敷も多い。大正期に開発された郊外住宅地で、芸術家が多く住んだため「目白文化村」とも云われた。近くには「自由学園」もあり、1921年(大正10)にフランク・ロイド・ライトが設計した校舎が保存されている。
道に迷ってうろうろして、〈ブックギャラリー ポポタム〉(http://www6.kiwi-us.com/~popotame/)にたどり着く。絵本を中心とした本の販売と展示を行なっている店だ。小ぢんまりとしていて、落ち着ける店だ。奥のギャラリーでは、「海野弘100冊の本の旅展」が開催中。評論家・海野弘さんがこれまでに出した著書100冊の現物を展示するもので、ぼくもちょっとお手伝いしている。今日はたまたま、ご本人もいらしていた。蔵書を放出した「海野弘のひとり一箱古本市」もやっていて、ぼくも、未所持の海野弘本を数冊購入した。
コレもたまたま店に来ていた、早稲田〈古書現世〉の向井透史くん(通称「セドローくん」)と自転車で池袋に向かう。丸い体型の二人が連なって、自転車に乗っている姿は、自分もちょっと笑える。東口・明治通り沿いの〈古書 往来座〉へ。天井までぎっしりと本が詰まっている店。池袋関係の本も多く、レジ前にあった豊島区立郷土資料館の図録を買った。ココでもまた、知り合いに会う。なんか、示し合わせたようだなあ。
その先を左折してしばらく進むと、弦巻通りに出る。小さな商店街があって、八百屋や床屋、パン屋などがある。昭和20〜30年代にできたと思われる、古い店舗が多く、まるごと「三丁目の夕日」みたいな通りである。そのナカに、知り合いが11月に雑貨店を開いた。〈旅猫雑貨店〉(http://www.tabineko.jp/)といい、和雑貨と古本を扱っている。店主のカネコさんは、古い二階家を借りて、自分たちで内装をやったという。開店記念に、猫関係の本の並ぶコーナーから、熊井明子『猫の文学散歩』(朝日文庫)500円を買う。
〈ポポタム〉〈往来座〉〈旅猫雑貨店〉というように、今日回ってきた目白や雑司ヶ谷には、最近、小さくてオモシロイ店が増えつつある。また、早稲田古書店街もほど近い。だから、彼らは早稲田・目白・雑司ヶ谷を「わめぞ」と呼び、ひとつながりのエリアとして盛り上げていこうと考えているのだ。そのうち、ナニか楽しいイベントが行なわれるかもしれない。
〈旅猫雑貨店〉を出て、カネコさんオススメの〈小倉屋〉で煎餅を買う。工場の奥に販売所があるので、フツーに歩いていたら見つからない。人気だという「あまから」と「焼きおにぎり」、各200円。ここまで案内してくれたセドローくんと別れて、都電荒川線に沿って走ろうとしたが、道が途切れていて、たちまち迷う。いちど池袋に出て、来たときと同じコースに戻り、それから20分ほど走ってウチに着いた。
今日、自転車に乗っていたのは3時間ぐらい、走行距離は10キロぐらいだろうか? 直線距離にしてみればたいしたコトはないのだが、勾配がキツく何度もアップダウンしたので、実感としてはその倍ぐらい走っているような気がする。東京は坂によってできているのだな、と改めて思う。
それにしても、ママチャリで走っていると腰が痛くなるなァ。そろそろ、マウンテンバイクを買おうか。それともいっそ、エンジン付き自転車か……。
【注】「タウンガイド池袋」というサイトの「池袋の七不思議」(http://www2h.biglobe.ne.jp/~TOWN/town/7fushigi.htm)に、何人かの読者が、ビックリガードの由来を述べている。そのうち、あるヒトが「昔のビックリガードはとても幅が狭くて、下から見ると線路と枕木が丸見えでした。荷車を引いた馬がここを通るとき、丁度上を列車が走るとものすごい大音響でした。それで、馬がびっくりしたのです」「ここを車が通るのはとても難しかった。ガードの両側が急な曲がりと勾配になっていました。そして1台がやっと通れるだけでした。向こう側から車が来るか来ないかわからないまま降りてきて正面から鉢合わせになることも」と書いている。たしかに、豊島区立郷土資料館の『えきぶくろ 池袋駅の誕生と街の形成』展の図録に掲載されたビックリガードの写真を見ると、すぐ上を列車が通っているし、道は狭くて曲っている。いろんなイミで、「ビックリ」する通りだったのかもしれない。
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ある時は大量の古本を買い込み、ある時は安居酒屋にしけこみ常連客の話に聞き入る、またある時はイベントを主催し大いに盛り上がる……仕事と私事の間をあっちへふらふら、こっちへふらふらのナンダロウ的生活。ブログ「ナンダロウアヤシゲな日々」の2005年分から精選し、300項目の注釈を付す。[巻末対談]南陀楼綾繁×畠中理恵子(書肆アクセス) |
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2006年12月13日更新
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11月某日 湯島デ明治ヲ思ヒ上野デ戦争ヲ思フ事
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