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「脇役列伝」タイトル

ヒーロー研究家立石一夫

不屈の魂、渡辺亮


 スポーツの醍醐味は、あっと驚く(タメゴローじゃない)逆転劇にある。筋書きのないドラマたる由縁でもある。野球でいうなら、逆転満塁ホームランだ。ボクシングでも打ちのめされ劣勢のボクサーが、何かをきっかけに逆転KO勝ちすることがたまさかある。
 壮烈、熱狂、死闘。こんな言葉が頭に浮かぶ試合は、長年生きていてもザラには見られない。私がすぐに思い出すのも、たった二試合だけだ。七〇年の沼田義明対ラウル・ロハス戦がそれだった。4回KO負け寸前の沼田、5回起死回生の右アッパーでロハスをコーナー近くで倒した試合である。
 もう一人は今回の主役、東洋J・ウェルター級王者、渡辺亮(帝拳)だ。ファイティング原田や、輪島功一を”根性の男”と呼ぶが、この人だって根性では一歩もヒケは取らない。六三年きっすいのプロ男は、アマチュア出身のエリート、高橋美徳と、世界挑戦権を賭けて戦う。高橋の華麗なアウトボクシングの前に、渡辺は敗る。だがこの時左肩を骨折して12回をフルに戦ったのだ。重傷の渡辺を病院に見舞った本田会長(故人)は、日頃の辛口を忘れて愛弟子を称えたそうだ。六一年沢田二郎を破って獲得した日本王座を、伊藤八郎、篠沢佐久次に奪われた。だがすぐに取り戻しているからその執念はご立派。
 私がボケない限り、未来永劫忘れられないのが六四年のバート・ソモジオ戦である。フィリピンの強豪との打撃戦は5回まで続いた。打撃戦の迫力は、テレビで見ていた人まで充分に伝わる。ダウンの応酬、3回は二度もダウンしている。誰もがもうダメだと思った。そこからが渡辺の真骨頂であった。勝利目前で鬼瓦の如き、ソモジオもやゝあなどったか。スタミナも失いながら死力を尽くす渡辺の猛攻にリングに倒れた。翌日のスポーツ紙は、「ド根性男、不振のボクシング界に活!」と大きな見出しが躍っていた。

渡辺亮


(生) S13.6.24 福島県田村郡出身
<戦跡> 42勝(21KO)15敗4分け
デビュー S32.5.25 東洋J・ウェルター級、日本ウェルター級チャンピオン 帝拳


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2006年8月3日更新
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