第32回 青龍,say me! 〜東上野戦前迷宮物件 |
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拙ミニコミ誌の最新刊(詳細は文末のお知らせへ)の委託先への納品が進んでいるので、その中から第30回に続く東上野ルートを紹介したい。
銀座線検車区からすぐみ並には近代的な建物の台東区役所が聳えている。周辺は再開発の真っ只中で、大きなビルが建設中だったりするが、その対面、何故かポツンと取り残されたように蔦の絡まる廃校が陰の気を発している。
祟りでもあって取り壊せないのかと勘ぐってしまう程の異様さがある。
ここは嘗ての下谷小学校。関東大震災後の昭和3年、東京市復興小学校として建てられた。コンクリート造の堅牢さ故か、今日までほぼ原形をとどめている。
現在は地域の活動の場として校庭など区民が利用しているようで、近隣の中学校や高校の仮校舎としても活用されているらしい。驚くなかれ、立替工事中である前出の岩倉高校も昨年仮校舎とされていたという。学生からは廃病院でバイオハザードと恐れられたらしい。学園祭も催されたというから、知っていれば絶対いってたよ!
ちなみにこの蔦、廃校となる前から絡まっていたそうで、この光景の中、学び舎として機能していたというのだからなんとも羨ましい話だ。
旧下谷小から南へ台東区役所、台東警察署と続いてスグ、交通量の多い浅草通りへと出る。この道路を渡ったところ、狭いテナントビルの並ぶ一角に小さなラーメン屋がある。
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青龍
11:00〜23:00
日曜休
東京都台東区東上野3-39-7
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かつて秋葉原電気街口に行列を作っていた「いすゞ」という超ちっちゃなラーメン店があった。今日の凝ったラーメンではなく、雑な作り方だけど生姜の効いたキレのある醤油ラーメンを出していた。東京ラーメンのオールドファンにはなんとも懐かしい響きだろう。閉店して10年近くなるが、「いすゞ」のそもそもの味を作った人物が腕を振るうのが、ここ青龍なのだ。
醤油ラーメン¥550は、薄切りの「の」の字チャーシュー2枚にワカメとメンマにネギが散らしてあるという、なんともオーソドックスなフェイス。いすゞのラーメンは立ち食いそば的な簡素な見た目だった気がするので、なんか豪勢に映った。
飲んでみると鶏ガラだろうか、動物系ダシのマイルドな優しい味わいが広がる。スープをあまり濁さずスッキリとしている。
麺は気持ち太めの白い麺。緩やかにウェーブがかかり、しっかりと茹でられている。つるんとのど越しもよく、縮れにスープも絡むが、噛んだ時の食感や若干感じられる粉の味わいが確かにあって、普通の麺のようで微妙に味わい深い。
1杯の量としては決して少なくない。ターミナル駅至近でこの内容で550円はスバラシイと、いやはや感服した一杯だったが、正直いすゞのラーメンという要素は殆ど感じられなかった。いすゞはもっと雑で真逆と言っていいくらい。あの生姜の効いた醤油のキレに対して、マイルドでふくよかささえ感じる味、とでも言おうか。
いすゞはあの時代のあの場所の味だったのだ。これは今の上野青龍の味。東京醤油ラーメンが味わえる貴重な店であると記憶しておきたい。
再び浅草通りを渡り通りの裏路地へ入ると、これまた老朽か激しいコンクリートの黒ずんだ塊が尋常でないオーラを発している一角に出る。同潤会上野下アパートだ。
同潤会は先の下谷小同様、関東大震災による復興事業のひとつ。財団法人として、防災の観点から日本で最初の鉄筋コンクリートアパートを計画した。その内の一つである上野下アパートは昭和4年完成。同潤会は昭和16年に解散しアパート建設は昭和9年で打ち止めとなっているから、中後期の建設となる。つい先ごろ三ノ輪アパートの取壊しが始まり、現存する最後の同潤会アパートとなった。
20年前に初めてこの上野下を見たときは、他の当時現存していた同潤会アパートに比べ、頑丈な現役の姿を留めていたが、久々に訪れた上野下はだいぶ老朽化しており、20年という歳月の長さを感じずにはいられなかった。
アパート向かいには以前長屋が軒を連ねていた。ここに嘗て八代目林家正蔵こと稲荷町の師匠、林家彦六が住んでいた。彦六長屋と呼ばれた一角も、往時の面影を残すのは一軒のみとなり、長屋の分断されたサイドのトタン張りがなんとも痛々しかった。
こうした長屋の方々も通ったろう銭湯が、上野下アパートの真裏にある。
一見すると東京にありがちな宮造で、確かに1F屋根の庇部分が滑らかに湾曲し末広がりに反る唐破風の大きな外観は都内屈指の立派さだと思うが、当時の人が見たらビックリなほど、内部は近代化していた。
脱衣場は改装され白くて清潔そのもの。なんだかビルの中の銭湯に来た気分だが、上を見ると立派な格子天井で、この銭湯の歴史を垣間見せる。洗い場にはなんとシャンプーとボディソープが備え付け。
室内浴槽は一般的な銭湯のそれだが、屋外には露天風呂まであり、これがビックリ、8人は入れるかという岩風呂。別料金のサウナはドライサウナのほか外に塩サウナもある。どんだけ広いんだと。
ここまで揃っちゃうと逆に、温泉だったらなぁとか欲が出てしまうが、現代の銭湯の進化型を見た気がした。元もとの昔ながらの銭湯の中でのこのギャップ、自分が今どの辺の時代の空気を感じているのか、時空があやふやになる不思議な体験をした気分だ。
・・・東京路地裏の夕暮れ時、濡れた髪は怪しい空気を含む・・・
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