3月25日のこと。7年ぶりに懐かしい人たちと再会しました。それも谷中で‥‥。毎度おなじみのコシズカハム&骨董ひよこ堂を、自転車で目指していたところ、目的地の500メートル手前で、どこかで見た2人連れを発見。通り過ぎた後、ハッと振り返り、声をかけました。
「すみません! 坂本さんですか?」
ママチャリに乗って赤ちゃんを抱っこし、毛糸の帽子を深くかぶった上に、スッピンという、見るから怪しげな私に、いきなり声をかけられた時の、2人の驚いた(怯えた)顔といったら、今でも思い出すと笑ってしまいます。2人の正体は、『ガラクタをちゃぶ台にのせて』(晶文社発行)で、撮影をしてくださった、カメラマンの坂本真典さんと、ユキちゃんだったのです。カメラの三脚を抱え、スラリとしたステキな女性、ユキちゃんも、笑うと目がなくなる坂本さんも、まったく変わりません。愛想のない娘の存在に驚きつつも、しばし歓談。事務所を千駄木に引っ越したと、ハガキをいただいていましたが、思いがけない出会いに、ひさしぶりに元気がでました。
余談になりますが、その数日後、ベビーカーを押して谷中を歩いていたら、俳優の大杉漣さんが撮影をしておられました。それも細くてクネクネと曲がったヘビ道で、大勢のスタッフの方と一緒に、こちらに向かって歩いてこられます。スッピンの私に逃げ場なし‥‥。通りすがりに「こんにちは」って、さわやかに挨拶してくださり、娘を見て「可愛い」って、いってくださいました。渋くて、ステキな方でした。やっぱり俳優さんって、オーラが違いますね。街もまわりの人も元気になる気がしました。しかし、スッピンで散歩に行くんじゃなかった! ひどい顔で挨拶したと思います。スミマセン‥‥。
話をもとに戻しまして、嬉しい気分のまま、まずは骨董ひよこ堂へ。どういうわけか、行くたびに懐かしい気持ちになるお店です。なぜだろう? と思ったら、阿佐ヶ谷にあった骨董屋、V-BROCKと重ねていることに気づきました。V-BROCKもオーナーが女性であったことと、取り扱っているモノも、幕末の食器や着物から、昭和レトロのガラクタまでと幅広く、夜遅くまで開いていたので、仕事帰りに友人と待ち合わせては、たわいもない話ばかりしていたっけ。楽しかったなぁ。そんな思いから、ついつい吸い寄せられるように、ひよこ堂に入ってしまう私です。
今回出会ったのは、2点です。1つは戦前につくられたガラスの醤油瓶。薄い緑色の気泡がたくさん入ったガラス製で、格子模様と、菖蒲が描かれています。高さは10.5センチと小さく、"戦前の醤油瓶"といえば、アルフィーの坂崎幸之助さんが、著書『和ガラスに抱かれて』(平凡社発行)の中で、"生活雑器の王様"として紹介しておられたり、先にご紹介した『こまごま古道具』にも載っていますが、多種多様のデザインに、驚かされるモノのひとつです。でも最近は、ここまで繊細で、可愛らしい醤油瓶って、あまり出なくなったような気がします。
もう1つは、ニワトリのつがいが描かれた印判のお皿です。菖蒲と藤の花が描かれていて、初夏の庭先だとわかります。ジッと見ていると、嬉しそうなニワトリの鳴き声と、土の匂いや、少し汗ばむ陽気まで、伝わってくるようです。
菖蒲といえば、年に数回訪れる、"あやめ祭り"で有名な水郷・潮来や佐原が、このたびの地震により液状化現象が起き、多くの被害がでているそうです。本当に広範囲の災害で、心が痛みます。鹿島神宮の大鳥居も倒れていましたし、茨城、千葉の沿岸も応援していきたいです。おしまいの写真は、新年に訪れた潮来です。右端に見えるのは、加藤洲閘門の一部で、菖蒲色に塗装されました。