ふらりと入ったギャラリーで、直径67ミリ、高さが40ミリほどの、厚手の容器を手に取りました。なんのことはない、シンプルな形の、小さな容器なのですが、白地に赤い細い線が2本描かれ、ひっくり返してみると、右横書きで「味の素 食卓容器」と描いてあったのです。思わず「味の素って、創業いつだっけ?」と、つぶやいてしまいました。あえて「食卓容器」って描いてあることも、すごく気になります。なにか特別の使い方でもあったのでしょうか? よくわからないまま、小さくて可愛い形に惹かれて、つれて帰ることにしました。
さっそく調べてみると、味の素が創業されたのは明治42(1909)年。すでに100年以上の長い年月が経過していたのでした。そして、高輪に"AJINOMOTO 食とくらしの小さな博物館"があると知りました。これは行くしかないでしょう。さすがに遠いので、自転車ではなく、娘と電車で向かうことに‥‥。しかし、ひさしぶりに乗った電車は、9月9日に電力制限が終了したせいか、弱冷房の車輌に乗ったにもかかわらず、すごく寒い! 日頃乗らないからそう思うのでしょうか。でも、前に座っていた女性も寒がっています。私は、湯たんぽのような娘を抱っこしていて、ちょうどいい感じでした。ひさしぶりの電車では、人の多さに驚いたのか、娘はキョロキョロ。慣れてくると、となりの人をさわりだすので、椅子に座らず、立っていきました。高輪近くになると、ほとんど人がいなくなったので、車内を歩かせてみましたが、案外平気で歩くもんです。エライ、エライ。
さて、博物館に入ると、ありました! ありました! 「味の素 陶器製食卓容器」として展示してありました。が、残念なことに(?)、フタがついているではありませんか! ガーン。フタもあったのかぁ~。私は欠品を買ってしまったのでした。昭和9(1934)年に出まわったモノだそうです。となりには「味の素 ガラス製食卓容器」という、ガラスでできたステキな容器も並んでいました。こちらは昭和6(1931)年につくられたモノだそうで、底にローマ字で、AJINOMOTOの文字が描いてあり、これもかっこいいなぁと思いながら、眺めたのでした。それにしても、この陶器でできた食卓容器は、単にフタをのせただけのようです。骨董市場で、バラバラになって出てきても仕方ありませんね(?)考えてみると、ガラス製容器も、フタをのせただけなのですが、陶器製だと、のせただけって、なんとなく違和感を感じてしまうのは、私だけでしょうか。湿気のことも気になります。
なにはともあれ、現物を見ることができたのは、本当によかったです。けれど、せっかく来たのですから、もう少し素性を調べたいと思いました。嬉しいことに、こちらでは2階に博物館、1階に資料館があり、食に関する書籍を閲覧することができます。荷物をロッカーに入れて、知りたい内容を受け付けで伝えると、すぐに味の素の社史コーナーに案内してくださり、『味の素 グループの100年』の中に、食卓容器を見つけることができました。
それによると、食卓容器とは、陶磁製とガラス製の、スマートな容器があり、それを各家庭で常備し、味の素を入れたのだそうです。そして、中身がなくなると、普通の缶から詰め替えるのだとか‥‥。食卓容器は、大正3(1914)年に試売され、需要の高まりから、昭和5(1930)年に入り、大々的に発売されたそうです。私は、味の素食卓容器って景品だとばかり思っていましたが、販売されたモノだったのですね。だとしたら、いつかフタだけどこかで出会えるかも知れません。それにしても、「スマートな容器」という表現は、昔っぽいというか、時代を感じて微笑ましく思えました。
でも、さすが味の素です。昭和もヒトケタの時代から、まだまだちゃぶ台が多かったであろう食卓に、こんなステキなデザインの食卓容器を提案するのですから、すごいですね。ずらりと並んだ書籍や資料から、その歴史を感じることができました。本当は、もっと読みたかったのですが、娘が許してくれるはずもなく、この1冊で、これだけわかったのはラッキーです。
はじめて訪れたAJINOMOTO 食とくらしの小さな博物館は、歩きはじめたばかりの娘と、安心してまわることができました。戦前から現代までの台所の様子を、くるっと一周するだけで、見ることができる、コンパクトな展示も楽しかったです。コンパクトといっても、実によく考えられ、モノの配置も素晴らしく、もちろん、戦前からの味の素の各種容器も、当時の人気商品などと一緒に展示され、とても楽しいひとときを過ごすことができました。娘も自分の目線にモノが並んでいることが、嬉しいらしく、のぞいては歩くをくり返しています。もう少し大きくなったら、また来たいと思いました。そして、これだけのモノや書籍を、維持・管理されているAJINOMOTOという企業に、本当に頭の下がる思いです。ありがとうございました。さて、味の素といえば、「あしたのもと、味の素」ってコマーシャルは、実に上手いネーミングだと思います。なんか、元気になれそうで、実際元気になって、いい気分で博物館を後にしたのでした(娘がぐずりだす前に‥‥)。
*食卓容器等の写真は、受け付けの方にお断りをして、撮影させていただきました。
話は変わりますが、底の器だけ買ったモノといえば、緑色の二重線が描かれた"国民食器"と呼ばれる丼があります。大きさがちょうどいいと思い、買ったのですが、これもフタがあったのに、器だけ買ってしまったのでした。もちろんフタの存在を知ったのは後の話。ちょっと悲しいものがありますが、仕方がありません。"時のかけら~統制陶器~"を書いておられる、りちょうけんさんも、フタを伴うモノは少ないと書いておられます。古いモノは、元箱入りででてくることは、まずありませんから‥‥。出会った時に、気に入るか気に入らないか、その気持ちだけですよね。丼は、よく見ると二重線の色も白地の色も違います。この微妙さが気に入って2つ買いました。当然のことながら、底の番号も違い、濃い緑色のほうは「岐700」。少しねずみ色っぽいのは「岐668」(だと思う)と描いてあります。
それぞれフタがないのは残念ですが、わが家にやってきたのも、ご縁です。大切に使っていきたいと思います。