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その87
まぼろしの神保町絵葉書と
まぼろし骨董館の巻

弓屋かえる堂さえきあすか


駿河台下神保町通絵葉書
駿河台下神保町通絵葉書

   手元に昔の絵葉書があります。『駿河台下神保町通』の絵葉書です。現在の神保町の街並みを思うと、「いったいここはどこ?」と頭をかかえてしまうほど遠い昔の景色で、“まぼろしの世界”のようです。
   通りにはチンチン電車がどんどこ走り、着物にパナマ帽姿の男性もちらほら……。電信柱に瓦屋根の家屋がずらりと並ぶ光景は、大正から昭和初期の神保町の様子でしょうか。
   『本と文化の窓 三世代 三省堂書店(写真でつづる本屋と文化)』によると、神保町に書店がぽつぽつと増えはじめたのは明治10年代末期の頃。三省堂は明治14年に開業されたそうですが、明治36年には市電が開業し、大正から昭和にかけて市民の足として大活躍していたのだそうです。
   絵葉書の中の電車の数をみる限り、「なるほど!」と納得しちゃいます。この距離にこんなに電車が必要なの? と思ってしまうほど走っていますよね。

本と文化の窓 三世代 三省堂書店
本と文化の窓 三世代 三省堂書店

   “まぼろし”といえば、見たことのない私にとっては「まぼろしの骨董館」なのですが、神保町に「東京古民具骨董館」があったことを思い出します。残念ながら、私は骨董館が池袋に引っ越してからの話しか知らず、よく先輩方に「さえきちゃんは神保町の時代を知らないんだぁ〜」といわれたものです。
   「まだ生まれてないよ!」とめちゃくちゃなことをいったりしたのですが、そんな骨董館について、竹日忠司さんが書かれた『生活骨董50年』(里文出版発行)の中の一文をご紹介したいと思います。

   『“古本の街”神田神保町に「東京古民具骨董館」を設立したのは、昭和54年7月でした。私が代表ということで5階建てビルの2階から5階まで借り、私たちの仲間が40店ほど出店しました。
   私たちはその頃蚤の市で有名なパリをはじめ、ロンドン、アムステルダムなどの骨董市や青空市を視察し、ヨーロッパの都市では常時、古民具市が開かれ、みんな古い物を大事に活用していることを知りました。
   ところが、世界一大きい都市である東京にそれがありません。将来のことを考えれば、どうしても常設館が必要だという結論になったのです。 ―以下略―』

生活骨董50年
生活骨董50年

   神保町に開店した骨董館は、日本初の大型骨董常設店だったのですね。骨董ブームの流れとあいまって、なんと観光バスでお客様が訪れるほど盛況だったそうです。地価高騰のあおりを受けて、立ち退きを余儀なくされた昭和62年までの8年間、神保町で営業されました。かれこれ20年以上前の話です。
   今年の4月に竹日忠司さんが亡くなられて(享年87歳)、あらためてこの書籍を読んでみると、現在のように物流も簡単ではなく、自ら工夫して古物を遠方から運び、売りさばく。それだけでなく、業界全体の発展を考えて、『アンティークニュース』なる骨董新聞を赤字覚悟で発行し、骨董市や青空市の開催、常設店を構えるなど、現在につながるすべての土台づくりに関わってこられたことがよくわかります。
   私の脳裏に残る竹日忠司さんは、「おやっさん」とみなに慕われ、どこの会場で出会ってもニコニコ笑顔で「ごくろうさん、ごくろうさん」といってくれる優しい方でした。童顔で、くっきりした眉毛が、なんだか手を合わせたくなるような、有り難い人相に思え、まるで七福神の恵比須さんのようだと思っていたのは私だけでしょうか。
   思えば、おやっさんのトラックはいつもパンパンに膨れていて、運転してひっくり返らないかしら? と思うほどで、そんなトラックの荷台から軽々と荷物を取り出したり、戻したり、本当に骨惜しみをしない、パワーのある人だなぁと眺めていました。
   余談ですが、少し前に西武池袋デパートで開催された骨董市で、竹日さんと懇意だった岩崎紘昌さんがトークショーをしておられ、「今の若い人たちは、私たちのように体を使ってガムシャラに働くなんてことは、もうしませんよ」なんて、年配の骨董好きの方たちに話しておられましたが、年々軟弱になっている私自身の根性を思うと、そうだろうなぁと思ったりします。

   現在からみれば、遠いまぼろしのような世界が、連綿と続いてきたからこそ今日がある。古い絵葉書を眺めていたら、そんな当たり前のことをしみじみと思ってしまいました。

   おしまいに、明治末期と思われる、九段坂上より神田方面を望んだ絵葉書をご紹介します。これもまた“まぼろしの景色”です。

九段坂上より神田方面を望む絵葉書
九段坂上より神田方面を望む絵葉書



2009年10月27日更新


その86 防虫消毒香料発散機「ムシキラー」の巻
その85 笠間骨董我楽多市と一富士二鷹三茄子筆立ての巻
その84 喫茶店の中の東京タワーと『世界一の東京タワー』絵葉書の巻
その83 東洋の宝石「帝国ホテル・ライト館」名刺入れの巻
その82 昭和初期につくられた簪を入れた小引き出しの巻
その81 OCCUPIED JAPANの小箱と『伝統工芸 東北のこけし』の巻
その80 マツダセレクトスイッチ電気時計と『実用 電気時計総説』の巻
その79 『山梨水晶』カタログと“ブルームーンストーン”に恋をするの巻
その78 “タンク式洗濯器”と向田邦子さんを真似て古い小鉢を買うの巻
その77 たばこ祭りで買った煙草煎餅と煙草図柄皿の巻
その76 昭和13年ライオン常用日記と手帳の巻
その75 「防諜」を訴える三猿貯金箱の巻
その74 ビー玉、水晶、真珠、まんまるに惹かれての巻
その73 房総からやってきたウランガラスのビー玉と貝殻の巻
その72 切れ端の写真立てと国旗柄写真立ての巻
その71 富山の薬箱はひきだしの巻
その70 水アイロンと桜&鈴印のコテの巻
その69 『がらくたからもの』対談と主張する平和記念“糸とおし”の巻
その68 宇都宮からやって来た鳳凰が描かれた小箱の巻
その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻
その66 三峯神社と戦前の迷子札の巻
その65 浦賀からやってきた江戸時代の灯芯押さえの巻
その64 戦前の牛乳ビンは花瓶の巻
その63 便利な実用品『回轉式踏台』の巻
その62 美味しい野菜&野菜種袋の巻
その61 元旦の福袋!日満ポンプと戦前鉛筆削りの巻
その60 国産マッチ創始者『清水誠』とマッチ入れの巻
その59 “萬年海綿器”と“スタンプモイスチャー”の巻
その58 上野「十三や」のつげ櫛の巻
その57 斎藤真一『紅い陽の村』と『夫婦岩』の大皿の巻
その56 ケロちゃん色の帯と『LUNCOの夏着物展』の巻
その55 こわれてしまった招き猫「三吉」の巻
その54 下北沢の『古道具・月天』と画期的発明鉛筆削りの巻
その53 無料で魅力的なモノ、例えば「ケロちゃんの下敷き」の巻
その52 時間の整理と時間割の巻
その51 自分へのごほうび、昔の文房具に瞳キラキラの巻
その50 アンティーク家具を使ったブックカフェで…の巻
その49 『Lunco』と『小さなレトロ博物館』、着物だらけの1週間の巻
その48 コルゲンコーワのケロちゃんと『チェコのマッチラベル』の巻
その47 「旧軽の軽井沢レトロ館にてレースのハンカチを買う」の巻
その46 濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
その45 横浜骨董ワールド&清涼飲料水瓶&ターコイズの指輪の巻
その44 『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
その43 奈良土産は『征露軍凱旋記念』ブリキ皿の巻
その42 ブリキのはがき函と『我楽多じまん』の巻
その41 満州は新京の絵葉書の巻
その40 ムーラン鉛筆棚の巻
その39 「Luncoのオモシロ着物柄」の巻
その38 ペンギンのインキ壷の巻
その37 「更生の友」と「ナオール」こと、60年前の接着剤の巻
その36 鹿の角でできた「萬歳」簪の巻
その35 移動し続けた『骨董ファン』編集部と資生堂の石鹸入れの巻
その34 「蛙のチンドン屋さん」メンコと亀有名画座の巻
その33 ドウブツトナリグミ・マメカミシバヰの巻
その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編
その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


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