その88
雪が谷大塚からやってきた、 「溶鉱炉水滴」と「スズメの豆皿」の巻 |
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東京は大田区の雪が谷大塚に、私好みの古道具屋さんを見つけました。店内には大正から昭和初期につくられた家具や、色とりどりのガラスの食器に印判の器たち、電傘や柱時計、玩具などが並び、気になってガラス越しにのぞき込んだのですが、それ以上に気になったのは店名です。
“道具屋 福や”と書かれた看板に、<その68>でご紹介した宇都宮の古道具屋さんの店名も“道具屋 福や”だったよなぁ……と思い出したのです。そう、2年前に、方位取りに宇都宮へ行ったときに偶然見つけたお店です。今回、雪が谷大塚で偶然見つけた“道具屋 福や”ですが、まさか関係ないよね、と思いつつ、店内へ入ってみました。
そこで出会ったのが溶鉱炉を模した水滴です。鉄鉱石から銑鉄をつくる巨大な円筒形の溶鉱炉を単純化したデザインで、店主曰く、「昭和初期頃のモノではないか」とのことですが、当時需要があったとは思いづらい代物です。
だいたい溶鉱炉を水滴にしようと思った発想が素晴らしいというか、斬新だと思いませんか? 書道のときに硯と一緒にこの水滴が並んでいたら、どんな文字を書いても許してもらえそうな気がします。そんなことを考えながら、昔のモノっておもしろいよなぁとニンマリしちゃいました。ちなみに素材はアンチモニー。渋い銀色で、高さ35ミリ、横幅45ミリです。
豆皿も買いました。全長80ミリという小さな円の中に、紅葉の木に止まる2羽のスズメが描いてあります。余談になりますが、ここ数年、スズメをはじめとする野鳥に目がなくて、キジバトの巣を発見してヒナと目が合うとか、川に落ちた鳩や死にそうな鴨を助けたりと、本物の鳥になにかと縁があるのです。
集団で遊んでいるスズメは眺めているだけで可愛らしく、スズメやキジバトの子育てに教えられたこともたくさんあります。この鳥への興味は、いつのまにか古物にも向いてしまい、スズメや鳥が描いてある食器には、ついつい目がいってしまう今日この頃なのでした。
話を戻しまして、豆皿に描かれた紅葉の木の下には、菊の花と、遠方には富士山と帆掛け舟、遠くに飛ぶ3羽の鳥が描いてあります。
季節は秋でしょうか──ふっくらとしたスズメは実に可愛らしく、白磁に青で描いてあるにもかかわらず、黄色い菊の花に、真っ赤な紅葉、茶色のスズメと色が浮かんできます。そんな豆皿に描かれた世界に惹かれ、喜んで連れ帰ることにしました。
さて、会計を済ませるときに、気になった店名について聞いてみました。
「宇都宮にも同じ名前のお店があるんですけど、関係あるのですか?」
ご主人は驚いた様子で、
「宇都宮のお店は、家内がやっているんですよ」
といわれました。
「たまたま行ったんですよ。そうなんですかぁ!」
偶然とはいえ、まったく知らなくて2つのお店に行ってしまうなんて、こんなこともあるのですね。まさに縁があったわけです。びっくりしちゃいました。
2009年12月08日更新
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