日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『浜千鳥』です。
「青い月夜の浜辺には…」で始まる『浜千鳥』。叙情的なメロディーで名曲の呼び声も高いこの歌の作曲者は、これまでも何度かご紹介している弘田龍太郎。作詞者は、『金魚の昼寝』などで知られる鹿島鳴秋*です。
『浜千鳥』(大正8年11月、『少女号』に発表)
作詞 鹿島鳴秋(かしまめいしゅう、1891−1954)
作曲 弘田龍太郎(ひろたりゅうたろう、1892−1952)
青い月夜の 浜辺には
親を探して 鳴く鳥が
波の国から 生れでる
濡れたつばさの 銀の色
夜鳴く鳥の 悲しさは
親を尋ねて 海こえて
月夜の国へ 消えてゆく
銀のつばさの 浜千鳥 |
親を捜す子千鳥の淋しさ、悲しさを訴えるこの歌詞は、どうして作られたのでしょう。巷間、「若くして亡くなった娘・昌子を偲んで、鹿島はこの歌詞を作った」という説が流布していますが、作詞当時、昌子さんは存命していたので、この説は間違いです。孤独な生い立ちを過ごした鹿島は、『浜千鳥』の作詞を通じて不遇な過去を精算し、思い出へと昇華させようとしたのかもしれません。ちなみに、作曲者の弘田はこの歌がとても気に入っていて、児童文学者の会合の酒席で度々この歌を歌いながらうれしそうに踊ったといいます。傍らで鹿島がどんな想いで聞いていたのか、非常に興味深いところです。
さて、今回ご紹介する『浜千鳥』の歌碑は、鹿島が一時期住んでいた千葉県の和田町にあります。昌子さんは昭和5年にここで亡くなりました。晩年、鹿島は東京・中目黒に住む和田町出身の医師宅に身を寄せたそうで、その縁もあって花園海岸に面した防砂林の中に碑が建てられています。南房総の和田町は、花卉栽培や捕鯨で知られる町。歌碑巡りのついでに、お花畑での花摘みや鯨料理を楽しむのもよいでしょう。
*鹿島鳴秋 かしまめいしゅう。童謡・童話作家。明治24年、東京都生まれ。本名は佐太郎。大正前期に清水かつら等と小学新報社を起こし、雑誌『少女号』を発行。同誌を中心に童謡を発表した。『浜千鳥』の他に『金魚の昼寝』、『お山のお猿』が代表作。第2次大戦中は満州日日新聞学芸部に勤め、戦後は日本コロムビア専属となる。昭和29年死去。享年63。
[参考文献 |
『ふるさと文学館第19巻 新潟』ぎょうせい 平成6年 |
斎藤弥四郎『外房−文学のふるさと』崙書房 昭和62年 |
『抒情歌愛唱歌大全集』ビクターファミリークラブ 平成4年 |
小田切進編『日本近代文学大事典 机上版』講談社 昭和59年] |
|
場所:千葉県和田町花園海岸の防砂林
交通:JR外房線「和田浦」駅より徒歩25分。国道128号線の「花園海水浴場入口」より防砂林に入る。
2005年3月17日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com
まで
[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
第29回 『通りゃんせ』
第28回 『宵待草』
第27回 『案山子』
第26回 『仲よし小道』
第25回 『七里ヶ浜の哀歌』
第24回 『城ヶ島の雨』
第23回 『どんぐりころころ』
第22回 『十五夜お月さん』
第21回 『浜辺の歌』
第20回 『叱られて』
第19回 『故郷』
第18回 『砂山』
第17回 『兎と亀』
第16回 『みどりのそよ風』
第15回 『朧月夜』
第14回 『早春賦』
第13回 『春よ来い』
第12回 『鉄道唱歌』(東海道編)
第11回 『赤い靴』
第10回 『靴が鳴る』
第9回 『紅葉』
第8回 『證城寺の狸囃子』
第7回 『かもめの水兵さん』
第6回 『箱根八里』
第5回 『赤い鳥小鳥』
第4回 『金太郎』
第3回 『荒城の月』
第2回 『春の小川』
第1回 童謡が消えていく
[ああわが心の東京修学旅行]
最終回 霞が関から新宿駅まで 〜霞が関から山の手をめぐって〜
第8回 大手町から桜田門まで 〜都心地域と首都東京〜
第7回 羽田から芝公園まで 〜城南工業地域と武蔵野台地を訪ねて〜
第6回 銀座から品川まで 〜都心地域と都市交通を訪ねて〜
第5回 日本橋から築地まで 〜下町商業地域並びに臨海地域を訪ねて〜
第4回 上野駅から両国橋まで 〜下町商業地域を訪ねて〜
第3回 神保町から上野公園まで 〜文教地域を訪ねて〜
第2回 新宿駅から九段まで 〜山手の住宅地域と商業地域を訪ねて〜
第1回 データで見る昭和35年
→ |