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「食料品店」タイトル

第31回「森永マンナ」の巻

日曜研究家串間努



  ちょっと話が脱線してしまうが、給食で脱脂粉乳を飲んだことがある昭和30年代以前生まれのみなさん、給食で出た脱脂粉乳の「ミルク」っておいしかったですか? それとも巷でいわれているように、ホントにまずかったのでしょうか?
  昭和10年代生まれの方に思い出を聞くと「あんなにまずいものはない」という方もいれば、「脱脂粉乳が楽しみだった」と懐かしむ方も一部おられ、給食は瓶の牛乳しか知らない世代の私(昭和38年生まれ)としては「いったいどっちなのだ」と首を傾げたくなる。

「包装の裏面には、しっかりと“脱脂粉乳”の文字が!」

「包装の裏面には、しっかりと“脱脂粉乳”の文字が!」

  ウチの母は小学校6年生だった昭和24年、「しょうゆ味ベースのスープに脱脂粉乳と鮭が入ったものが出て、まずかった……」という体験を持っている。戦後すぐという特殊な事情があったにせよ、日本人には考えもつかない味覚である。戦後の学校給食はララ物資で始まったが、そのララ委員会にいたネルソン氏が『学校給食十五年史』という本にこんな思い出を寄せている。
  「脱脂粉乳はそのまま飲むよりも『スープ』に混ぜたほうがよい。なぜなら『温かいスープが食事の中心であり、そのスープにミルクを入れると他の料理が引き立てられるからだ』」

「いろんなものに混ぜてみて味を確かめてみよう!」

「いろんなものに混ぜてみて味を確かめてみよう!」

  彼の国が肉食文化であることを考えると、肉は基本的に体を温める食べ物であるから、食事の“温かさ”にこだわるのはよくわかる。体を温める「スープ」を食事の基本と考えるアメリカ人は、カロリー計算上の栄養を満たすためにも、味はいっさい無視し、鮭と醤油をごちゃまぜにして脱脂粉乳に入れたのだろう。だからウチの母は脱脂粉乳が好きではない。それが遺伝したのか、私もだ。
  また、イギリスには「フィッシャーマンズ・パイ」という料理がある。これは鮭や鱈など魚介を牛乳で煮てマッシュポテトをかけてオーブンで焼いたもの。魚を牛乳で煮るという調理文化と味覚は決して変ではないらしい。でも醤油を入れる手はないだろう……。
  そんな私が離乳食に「森永マンナ」を好んで食べたのは(母の証言による)、脱脂粉乳ではなく牛乳で練ったビスケットだったからなのかもしれない。

「成長に伴って、脱脂粉乳からビスケットへ」

「成長に伴って、脱脂粉乳からビスケットへ」

  森永製菓創業者の森永太一郎がクリスチャンであることから、旧約聖書にある『神が荒野をさまよえる民に与え給うた愛の食べ物のMANNA(マナ)』から名付けられたこのビスケットは、伊豆大地震が起きた昭和5年に「赤ちゃんのミルクビスケット」として発売された。
  以来、多くのお母さん方に厚い信頼を得ているロングセラー商品だ。当時のほかのビスケットは進物用として美しい印刷化粧缶入りが多かったが、マンナは大衆に普及することを目的としてボール紙にワックスを塗った缶代用品を案出。50銭で発売し、業界にセンセーションを巻き起こした。しかしそのころ、粉白粉やポマードが50銭だったことを考えると、1,000円以上の価値だったのかもしれない。

「小学生になってもうまいものはうまいなぁ(笑)。」

「小学生になってもうまいものはうまいなぁ(笑)。」

  「お子さんの場合、胃が小さいですから3食では栄養が摂りきれないんですね。4回目の食事という点でおやつが重要になります。マンナは乳幼児向けとしてやや小ぶりで、サクサク感があるように作られています」(森永製菓株式会社)。
  パッケージは一時イラストにしたが、基本的には赤ちゃんの写真を使っている。70年代〜80年代にかけての赤ちゃん写真が顔なじみとなっていて、見覚えがある方が多いと思う。
  「1999年8月に、もう一度赤ちゃんの写真に戻そうよということで、雑誌で公募して改めました。おかげで売上も伸びたんですよ」
  なかには「ウチの子を使ってくれ!」と写真同封で売り込みの手紙を出すお母さんもいるらしい。
  もの心ついていないときに食べた経験しかない方が多いかもしれないが、たくさんの人が乳幼児時代にマンナの味に親しんでおり、親子2代、3代のファンも多い。
  「子どものころに食べたという経験が大きいので、この商品は少子化になっても大切にしていきたいですね」と森永製菓では考えている

【追記】
  近年、アメリカから「ベビーサイン」という、赤ちゃんと手話でコミュニケーションをとる育児法が上陸し、広まった。そのためか森永マンナのパッケージも2008年からこのベビーサインをするマンナちゃんのイラストにリニューアルした。サインは商品別で、ビスケットは“おいしい”、ボーロは“食べる”、ウエファーは“もっと”を表わしている。
  また、ビスケットそのものも変化している。発売から72年間、2002年までは丸型のビスケットだったが、同年8月から「マンナちゃん」というキャラクターの顔をかたどった形になっている。
  時代に合わせて変わっていけるから、ロングセラーとして愛され続けるのだろう。


2009年11月11日更新


[ノスタルジー商店「まぼろし食料品店」]
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