坂道に囲まれた町を、1歳の娘と自転車で散歩をするのが日課の私に、「一番どこの坂道が好きですか?」と聞かれたら、私は「菊坂!」と答えたいと思います。本郷通り沿いの本郷薬師近くにある菊坂通り。比較的長くて、傾斜が緩やかで、春日まで下ることができます。そして、5千円札に肖像画が描かれている、作家・樋口一葉さんが住んでいたことでも、有名な場所でありますが、それが好きな理由ではありません。菊坂は、ほかの坂道に比べると、車通りが少なく、「ぶ~ん」といいながら、安心して自転車で下ることができ、娘がとても喜ぶからです。通りの真ん中には、"菊坂コロッケ"を販売する"まるや肉店"をはじめ、魚屋"魚よし商店"、先には"上田屋豆腐店"などがあり、保冷バック片手にひとっ走りすれば、パパッと買い物ができるのもありがたく、ずらりと並ぶ街灯には、風鈴がつけてあるのも、特徴のひとつです。もちろん夏だけだと思いますが、「リーン、リーン」という、美しい音色を聞きながら、自転車で通り過ぎると、暑い気持ちにひと息つける感じがするのです。風鈴の音はうるさくないかって? それが、うるさくないのです。ついている風鈴が、すべて鉄の風鈴だからです。鉄の風鈴って、ガラスに比べると、見た目の華やかさには劣りますが、音が優しくて、深みのある、甘い音色といいましょうか。ずっと鳴っていても、私はうるさいと感じたことがありません。わが家でも、7年ほど前に"銀座たくみ"にて、南部鉄の風鈴を求め、以来ずっと窓辺に飾っているのですが、心地よい音を奏でてくれます。
南部鉄といえば、ひと昔前につくられたと思われる栓抜きを持っています。それも、こけしの形をしています。フリーマーケットで見つけた時に、結った髪の毛といい、微笑んでいる優しい表情といい、とても可愛らしい栓抜きだと思いました。裏面には「南部」の文字と、薄くて見えづらいのですが、「JAPAN」の文字が描いてあり(写真には写りませんでした)、手で握ってみると、なんともいえない感触です。素朴で、持ちやすく、鉄なのにあたたかい感じとでもいいましょうか。嬉しい気持ちで、つれて帰りました。
南部鉄器の産地は、いわずと知れた岩手県奥州市と盛岡市ですが、私は、どちらも訪ねたことがありません。もう少し子供が大きくなったら、ぜひとも行ってみたいと思っている場所のひとつなのです。それにしても、栓抜きを自宅で使うことって、ずいぶん減りましたね。うちはお酒も飲まないクチなので、特に使わないというか‥‥。なので栓抜きというよりは、テーブルに置いた紙類の上に、ポンッと無造作に置いて、紙が飛ばないようにしています。
そうそう、こけしがらみで、以前"こけし郵便"と一緒にご紹介した、"箱橇っ子人形"と同じ箱橇が写った絵葉書と出会いました。「子供の雪遊び(山形)」と右横書きで書いてある、戦前の絵葉書です。箱橇っ子人形が生まれたのも山形県でした。実際に使っていた様子がわかると、ますます親しみがわいてきます。玩具にも地域性がでると、楽しいですね。
気になる街角
<本郷館 その3>
本格的に工事がはじまりました。