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「定食ニッポン」タイトル

キャベツ焼きの店

第37回 関西シリーズ(3)
…天満橋のキャベツ焼き

畸人研究学会今柊二


 ふぐの効果があらわれたのか、翌日になるとフシギなことに熱もおさまり、かなり体調が復活してきた。そのためホテルで朝食をとっていざ業務に。この日もまた奈良にでかける。この日の業務は奈良にある廣瀬神社という由緒正しい神社の奇祭「砂かけ祭り」の取材。これがあなた、豊作をいのって、境内に運び込まれた砂を雨にたとえて互いにひたすらかけあうというすさまじい祭りで、取材陣だろうがなんだろうが、容赦なく砂をあびせかけられる(笑)。事前に予想してレインコートは持参したものの、それでも服の中にジャカスカ砂が混入。かけられるほど縁起がよいということだが、人にかけられるとこちらも応戦したくなり、砂のかけあいをしていると、風邪はもうどこかに行っていましたわ。
 ということで、終了後夕食を食べようということになり、再び大阪へ。昨日食べたキャベツ焼きの話を他のスタッフにすると、「じゃあお好み焼きでも…」ということになり、お好み焼きならばということで、再び天満へ。なぜこの街に再びきたかというというと、ここには大阪で憧れていた「菊水」があるからだった。四国出身の私は子どものときから吉本新喜劇を見て育ったが、吉本の芸人、だれかは忘れたけど、「お好みや焼きやったら、菊水や!」と何かの雑誌で記していたのが印象的だったのだ。さらにこの店は大きなポイントがあって、うるさいご主人がいて、「絶対」客はお好み焼きに手を触れてはいけないのだった。店のなかをご主人が巡回して、鉄板で返してつくってくれるというのがこの店の特徴なのだった。それをさる芸人がいたずら心で少しずつお好み焼きを動かしてみるという記事も読んだ記憶があり、そんなときご主人はまさにこの世の終わりのように「ああ!」と嘆声をあげるとのことだった(笑)。
 そんな楽しくも恐ろしい店を一回訪れてみたいと思って数十年、ようやく思いが適うのである。天満駅で下りると菊水はすぐだ。場所はすでに天満橋商店街に何度も訪れているのでよくわかっている。
 訪れたのは17時だったが、すでに店の前で客が待っている。ただし一組だけだったのでわりとすんなりと店内に入れた。店内は各4名がけの個室に分かれている。お好み焼きは結構高いが、ここは一つふんばって五味焼き1630円(!)を食べることにする。これは豚牛イカ海老タコが入ったもので、まあデラックスなお好み焼きというわけだ。ふだんは食べ物に関してはその値段にとてもうるさいのに、前日のづぼらやで値段に麻痺していたのと、憧れの菊水で舞い上がっていたせいか、なぜかこの値段に抵抗がなかったのだった。注文すると、お姉さんがきちんとセットされたお好み焼きのセットをもってきてくれる。残念ながら名物のご主人はもう亡くなっているので、今はその教えを継承した店のスタッフが焼いてくれるのだった。見ていると手際がとてもよく、美しく混ぜて、具を生地に美しく乗せて、美しく円形に仕上げて鉄板の上においた。「しばらくこのままで」といってお姉さんは姿を消す。焼けるのをじーっとみながらビールを飲む。この店、つまみとかまったく何もない。強いていうならお好み焼きがやける姿がつまみか(笑)。見ているとどんどん食べたくなってくるのだ。しばらくするとお姉さんがきてひっくり返す。ここでポイントは、ぺたぺたとコテでお好み焼きをたたかないことでしょうねえ。かくしてお好み焼きができあがり、青海苔などを各自でかけて食す。確かにウマイ。ビールを飲みながら待たされた分も混じってひたすらうまい。生地は焼きすぎでもなく、生焼けでもなくウマイ。タコやイカや肉関係の具もたっぷり自己主張していてウマイ。大きさもとても充分。満腹になってとても深い満足。なんというんですか、文通で憧れていた女の子に実際あってみると想像以上に美しい女の子だったって感じですかね。まあ思いが達成された満足感も強いですねえ。
 さらに、ビールとお好み焼き以外に金の使いようがないので、会計も実は東京のチェーン居酒屋で飲むより実は安上がりだったのだった。


2005年4月6日更新
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[定食ニッポン]
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