日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『七つの子』です。
誰もが知っている「からすなぜなくの…」の歌い出しで始まる『七つの子』。昭和55年頃、TBSの『8時だョ!全員集合』でこの後に「からすの勝手でしょ〜」と続けるコントがありましたが、それも今は昔。本家本元の『七つの子』は、相変わらず人々に深く愛されています。この歌の作詞者は、野口雨情。作曲者は、本居長世。『赤い靴』や『十五夜お月さん』と同じコンビです。
『七つの子』(『金の船』大正10年7月号 に発表。歌詞は『定本野口雨情 第三巻』未来社 昭和61年 収録のもの)
作詞 野口雨情(のぐちうじょう、1882−1945)
作曲 本居長世(もとおりながよ、1885−1945)
烏 なぜ啼くの
烏は山に
可愛七つの
子があるからよ
可愛 可愛と
烏は啼くの
可愛 可愛と
啼くんだよ
山の古巣に
行つて見て御覧
丸い眼をした
いい子だよ。 |
この歌を歌っていて、「『七つ』とはどんな意味なんだろう。七羽なのかな。でも鳥は『七つ』とは言わないから、七歳ということなのかな。でも烏の子供が七歳というのも変だな…」と疑問に思ったことはありませんか?これまでも見てきたように雨情は自作の童謡についてあれこれ書き残しておりますが(『赤い靴』、『十五夜お月さん』の回を参照)、『七つの子』についても次のように述べています。
「静かな夕暮に一羽の烏が啼きながら山の方へ飛んで行くのを見て少年は友達に『何故烏はなきながら飛んでゆくのだらう』と尋ねましたら『そりや君、烏はあの向ふの山にたくさんの子供たちがゐるからだよ、あの啼き声を聞いて見給へ、かはいかはいといつてゐるではないか、その可愛い子供たちは山の巣の中で親がらすのかへりをきつと待つてゐるに違ひないさ』といふ気分をうたつたのであります。一般の人たちは、烏は横着物で醜い鳥だとばかり思ひなされてゐましたけれども童謡の世界では、さうした醜い感情をも、愛情の焔に包んでしまはなければなりません。この歌謡中に丸い眼をしたいい子だよとうたつたところに童謡の境地があることを考へて下さい。童謡の境地はいかなる場合にも愛の世界であり、人情の世界でなくてはならないのであります。」(『童謡と童心芸術』同文館 大正14年より[『定本野口雨情 第八巻』に収録])
上記の説明を素直に受け取れば、「七つ」は「たくさん」という意味になります。「七転八倒」とか「九重」などに見られるように、私たちは数字に「たくさん」という意味を持たせて使うことがあります。雨情は、詞の1行目にある「からす なぜなくの」に対して3行目で韻を踏ませようと、「たくさん」の意を持つ「七」、「八」、「九」等の数字のうちで同じ音を持つ「七」を採用して、「かわい ななつの」と続けたのです。ここで「かわい 七羽の」とはせず、「〜七つの」にしたのは、前者だと単純に「七羽の子烏」と受け取られてしまうので、本来の「たくさんの子烏」という意味を出すべく、後者のようなイレギュラーな表現を創り出したとは解釈できないでしょうか?
さて、『七つの子』の歌碑ですが、今回は茨城県北茨城市磯原の精華小学校にある碑をご紹介いたします。こちらの小学校は雨情の母校に当たり、碑は校庭の一角に据えられています。児童達は朝な夕なにこの碑を見ながら、『七つの子』に込められた「愛」の心を自ずと育んでいくのでしょう。この磯原には雨情の生家も残っており、資料館となっていますので、歌碑をご覧になる際にはこちらも是非お立ち寄り下さい。
[参考文献 |
『定本野口雨情 第三巻』未来社 昭和61年 |
『定本野口雨情 第八巻』未来社 昭和62年 |
『童心の詩人 野口雨情』いわき市立草野心平記念文学館 平成12年] |
|
場所:茨城県北茨城市磯原町磯原4−36 精華小学校内
交通:JR常磐線磯原駅西口より徒歩8分。
尚、歌碑は学校の敷地内にあるため、見学を希望される方は事前に精華小学校(TEL 0293−42−0328[代表])までお問い合わせ下さい。
野口雨情生家 茨城県北茨城市磯原町磯原73番地 TEL 0293−42−1891
2005年6月7日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com
まで
[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
第31回 『背くらべ』
第30回 『浜千鳥』
第29回 『通りゃんせ』
第28回 『宵待草』
第27回 『案山子』
第26回 『仲よし小道』
第25回 『七里ヶ浜の哀歌』
第24回 『城ヶ島の雨』
第23回 『どんぐりころころ』
第22回 『十五夜お月さん』
第21回 『浜辺の歌』
第20回 『叱られて』
第19回 『故郷』
第18回 『砂山』
第17回 『兎と亀』
第16回 『みどりのそよ風』
第15回 『朧月夜』
第14回 『早春賦』
第13回 『春よ来い』
第12回 『鉄道唱歌』(東海道編)
第11回 『赤い靴』
第10回 『靴が鳴る』
第9回 『紅葉』
第8回 『證城寺の狸囃子』
第7回 『かもめの水兵さん』
第6回 『箱根八里』
第5回 『赤い鳥小鳥』
第4回 『金太郎』
第3回 『荒城の月』
第2回 『春の小川』
第1回 童謡が消えていく
[ああわが心の東京修学旅行]
最終回 霞が関から新宿駅まで 〜霞が関から山の手をめぐって〜
第8回 大手町から桜田門まで 〜都心地域と首都東京〜
第7回 羽田から芝公園まで 〜城南工業地域と武蔵野台地を訪ねて〜
第6回 銀座から品川まで 〜都心地域と都市交通を訪ねて〜
第5回 日本橋から築地まで 〜下町商業地域並びに臨海地域を訪ねて〜
第4回 上野駅から両国橋まで 〜下町商業地域を訪ねて〜
第3回 神保町から上野公園まで 〜文教地域を訪ねて〜
第2回 新宿駅から九段まで 〜山手の住宅地域と商業地域を訪ねて〜
第1回 データで見る昭和35年
→ |