「さえきさん、私にとって、この本は、今まで思ってきたことの集大成であり、理想の本なのです。これが完成したら、私、もう、いつ消えてしまってもいい、というくらいの思いでつくっているのです」と、庄司さん、いえ、びん博士は、私の目を見て話されました。
「またまた、消えるだなんてやめてくださいよ。でも、集大成ですか。凝ったつくりの本ですね。おもしろそう‥‥」
「いやぁ、そういっていただけると‥‥。読んでくださった方の中には、昔の言葉が多くて読みづらいといわれたりもしますが、この本は読むんじゃないんです。心で見て感じるんです」びん博士の独特の口調に、思わず笑ってしまいます。
骨董ジャンボリーの会場で、入口近くにお店を構える、びん博士と何年ぶりかにお会いしたのに、不思議ですね。いきなり普通の会話からスタートです。お店には、びんも並んでいますが、私にとって今回の主役は、びん博士が熱く語られた本です。もちろん買いました! タイトルは『原色日本壜圖鑑』。びんの本をつくっているという噂は聞いていたものの、ようやく実物を見ることができました。紺色の厚手の表紙に、箔押しされた銀色の文字が、なんだか、とても懐かしい感じがして、昔からあった書物に出会えたような、そんな錯覚を感じさせてくれます。穴を開けて、新刊がでるたびに綴じていくというスタイルも、収集家のハシクレ(?)としては、ワクワクするつくりです。もちろん、穴を開けずに、興味ある1冊だけ、お手元に置かれるのも大丈夫です。思えば、昔の本にとって、"原色"、いえ"カラー"って、とても貴重でした。本に写真を載せること、それもカラー写真を載せることは、お金も手間もかかって、大変なことだったのです。だから、わざわざタイトルに"原色"とつけて、見る人に「カラーありますよ」って、宣伝したといいましょうか、それくらい価値がありました。そんな価値ある『原色日本壜圖鑑』は、現在までに3冊発行されています。
第0巻【はじめに】では、壜との運命の出会い、図鑑が好きだった少年時代の話にはじまり、最初に出会った壜の紹介や、その壜の背景にある素性など、詳しく紹介してあります。
第一巻【イヒチオールびん篇】では、複数のイヒチオールびんを原色で紹介しながら、会社や製造者の写真を交えて、素性などを細かく書いておられます。
第二巻【育蠶活桑器びん篇】では、育蠶活桑器びんの原色写真は、もちろんのこと、実用新案登録されたびんたちの登録内容まで掲載してあり、びんのこともよくわかりますが、日本で、これらのびんが産まれるまで、いかに蚕が飼育され、産業として栄えてきたかを、うかがい知ることもできます。
以上、どの本もびんを通して当時の世相までわかる、単なるびんの本ではない、日本の壜図鑑なのでした。それも、大半の部分が手づくりだというからスゴイです。ページをめくると、薄手の紙の次に、その本の主役となるべく、びんの写真が1枚貼ってあります。本文中の原色写真は、印刷されていますが、最初の1枚だけは、ていねいに切り貼りされているのです。お店でお手伝いをなさっていたWさんが、1枚1枚貼られたそうで、「すみません。よく見ると曲がっているかも」と、手渡してくださったのが印象的でした。もちろん本文のデザインも凝っていてステキですし、本誌の表紙の文字だけ活版印刷というのも見逃せません。実にこだわっていますね。次回は「神薬」のびんで、前篇、後篇と2冊になるそうです。神薬びんは、はじめて見た時、商品名で感激し、美しいブルーの色と、小さな可愛らしい形のびんに、大好きになりました。種類も多く、私は数本しか持っていませんが、とても楽しみです。
そして、これまた、ずっと気になっていたCD『壜博士の"ボトル・フラグメント"』(歌詞、作曲、歌、演奏 庄司太一)も、ようやく買うことができました。庄司さんの歌は、何度か聞いたことがありますが(その31、その32参照)、家に帰って、「大きなび~ん。小さいび~ん」と、独特の歌声を聞いていたら、どういうわけか、NHKの幼児番組『いすのまちのコッシー』という、人形劇が頭に浮かんできたのです。どんな内容かというと、椅子の街で暮らす、いろんな種類の椅子たちが、人間関係ならぬ椅子関係の中で、悩んだり、遊んだり、学んだりしながら成長していく話で、この人形劇、椅子じゃなくて、びんでもいいかも‥‥と突然思ったのでした。びんもいろんな種類があって、立場(?)があって、物語にするのは悪くないと思ったのです。形は単純だし、"容器"って掘り下げると深いと思います。もちろん主題歌は、びん博士で‥‥。なんて、そんな世界を想像(妄想)してしまうほど、びん博士の歌は、ストーリー性が高いと思うのです。当然、9曲すべてびんの歌です。
庄司さんの低い声に安心したのか、もぞもぞ暴れていた娘は、ストンと眠りに落ちました。これは帰るチャンスです。慌てて出口に向かうと、主催者のお1人である竹日忠芳さんと、以前からお世話になっている業者、Mさんにお会いしました。みなさん、本当にお元気そうで、パワフルに頑張っておられます。私も頑張らなくっちゃ!と思い、ご挨拶をして会場を出ました。ここから、有明駅までが遠いんですよね。寝ている娘は、重い。重い。でも、今のうちに電車で行けるところまで行かなくては。有明駅について、ビックサイトに向かって写真を撮りました。何度も見てきた景色なのに、今までとは少し違う感じに映ります。幸い娘は1時間ほど寝てくれまして、起きたのは家の近くでした。「今日はありがとう」と頭をなでると、ニカッと笑いました。
追記:いつもはカタカナで"ビン"と書くのですが、びん博士は、"びん"または"壜"と書かれるので、同じように書きました。それと、あと3つ小さいモノをつれて帰ったのですが、それらは下調べが済んでから、ご紹介しするとして、2011年夏の骨董ジャンボリーのお話は、ひとまず終了したいと思います。
今回は、ひさしぶりに、びん博士と奥様にお会いできたお祝い(?)として、長年うちにいるビンをご紹介します。"東京淀橋 萬歳商會謹製"の"萬☆歳"、"BANZAI"と、右横書きで描かれた、高さが273ミリ、底の直径が58ミリの細長いビンです。バンザイマスクに続く、バンザイビンですね! なんともメデタイ感じがします。飲料水のビンだと思うのですが、なにが入っていたのでしょう。よく見ると、昭和初期の空気、アワアワがたくさんあって、魅力的なビンなのです。
ご案内
手づくりの本といえば、串間努さんがつくっておられるミニコミ誌を忘れてはいけません。タイトルは『旅と趣味』。"昭和娯楽の総合趣味誌"と書かれるだけあって、ものすごく濃い内容の、読むと達成感が得られる趣味誌です。それも、表紙や誌面に、昔のラベルや袋などが、そのまま貼ってあるのです。作業の様子を想像するだけで、深く頭を下げたい思いになります。実は、私も参加させていただいてます。『御朱印収集の旅』と題しまして、今回は江戸五色不動について、書きました。そのほかの内容は、あらためてご紹介しますが、今回は緊急告知をしたいと思います。
来たる8月14日、日曜日、東京ビックサイトで開催される、超有名なコミックマーケットに、このミニコミ誌&バックナンバーを持って、串間努さんが参加されます。
☆場所は、東2ホール Oの58aです。
また、まぼろしチャンネル管理人でもある刈部山本さんも、新刊『戦跡商店喰い』を持って参加されます。お2人とも同日です。コミケには、アニメ以外にも、さまざまな物事を研究したり、調べてまとめたミニコミ誌が、たくさん並びます。興味のある方は、ぜひ!
☆場所は、東"R"-11b「ガキ帝国」です。