日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『青い眼の人形』です。
「青い眼をしたお人形は、アメリカ生れのセルロイド…」。第11回の『赤い靴』でも触れましたが、この歌は『赤い靴』と反対の気持をうたったもの。日本にやってきた人形を擬人化して、優しい気持ちで気遣い、思いやっています。作詞&作曲は『赤い靴』同様、野口雨情&本居長世のコンビです。
『青い眼の人形』(『金の船』大正10年12月号 に発表。歌詞は『定本野口雨情 第三巻』未来社 昭和61年 収録のもの)
作詞 野口雨情(のぐちうじょう、1882−1945)
作曲 本居長世(もとおりながよ、1885−1945)
青い眼をした
お人形は
アメリカ生れの
セルロイド
日本の港へ
ついたとき
一杯涙を
うかべてた
「わたしは言葉が
わからない
迷ひ子になつたら
なんとせう」
やさしい日本の
嬢ちやんよ
仲よく遊んで
やつとくれ |
「青い目の人形」というと、昭和の初めにアメリカから日本の子供達に贈られ、第二次大戦中には憎悪の対象として焼かれたり破壊されたりした人形達のことを思い出される方も多いでしょう。しかし、この『青い眼の人形』の歌は彼女達のことを歌ったものではありません。上記の青い目の人形達が日本に来た時には、『春の小川』や『故郷』でおなじみの高野辰之が文部省の依頼を受けて『人形を迎える歌』を作詞し、これが全国各地の歓迎式典で盛んに演奏されました。
『人形を迎える歌』(昭和2年 発表。歌詞は野沢温泉村斑山文庫収集委員会『高野辰之 志をはたして その学問と人間像』野沢温泉村おぼろ月夜の館 平成4年 収録のもの)
海のあちらの友だちの
まことの心の
こもっている
かはいいかはいい
人形さん
あなたをみんなで
迎へます
波をはるばる渡り来て
ここ迄おいでの
人形さん
さびしいやうには
いたしません
お国の積りで
いらっしゃい
顔も心もおんなじに
やさしいあなたを
誰がまあ
ほんとの妹と弟と
おもわぬものが
ありませう |
来日した人形達はそれぞれに名前を持ち、本物そっくりのパスポートやビザまで携えていたのですが、『人形を迎える歌』からは個々の人形に対する親愛の情は湧いてきません。人形達をいたわる気持ちは伝わってくるものの、人形への呼びかけは形式的な内容に終始しています。一方、雨情の『青い眼の人形』では、人形に「わたしは言葉がわからない 迷ひ子になつたらなんとせう」と語らせ、人形の所有者である少女達に慈愛の心を起こさせるようにしています。日本に贈られた人形は、アメリカの子供達から1万2739体、篤志家達から156体、各州代表&全米代表の人形が49体。そのうち戦火をくぐり抜けて今日残っているのは、数百体。もしかすると、その中には雨情の歌に感銘を受けた少女が守った人形があるかもしれません。
さて、この歌の歌碑は、前回の『シヤボン玉』と同じく茨城県北茨木市の常磐自動車道・中郷サービスエリア[下り線]内に建てられています。すぐそばには『赤い靴』の碑があり、鐘をハンマーで左から順に叩くと曲が演奏できるアトラクションもありますので、『青い眼の人形』の碑をご覧になるついでに楽しまれてはいかがでしょうか。
[参考文献 |
『定本野口雨情 第三巻』未来社 昭和61年 |
『定本野口雨情 第七巻』未来社 昭和61年 |
磯部佑一郎『青い目の小さな大使 日米人形交歓の記録』ジャパンタイムズ 昭和55年 |
野沢温泉村斑山文庫収集委員会『高野辰之 志をはたして その学問と人間像』野沢温泉村おぼろ月夜の館 平成4年] |
|
場所:茨城県北茨城市常磐自動車道・中郷サービスエリア[下り線]内
交通:JR常磐線南中郷駅よりタクシー6分。
2005年12月27日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com
まで
[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
第39回 『シヤボン玉』
第38回 『雨降りお月さん』
第37回 『かごめかごめ』
第36回 『蜀黍畑』
第35回 『あの町この町』
第34回 『黄金虫』
第33回 『四丁目の犬』
第32回 『七つの子』
第31回 『背くらべ』
第30回 『浜千鳥』
第29回 『通りゃんせ』
第28回 『宵待草』
第27回 『案山子』
第26回 『仲よし小道』
第25回 『七里ヶ浜の哀歌』
第24回 『城ヶ島の雨』
第23回 『どんぐりころころ』
第22回 『十五夜お月さん』
第21回 『浜辺の歌』
第20回 『叱られて』
第19回 『故郷』
第18回 『砂山』
第17回 『兎と亀』
第16回 『みどりのそよ風』
第15回 『朧月夜』
第14回 『早春賦』
第13回 『春よ来い』
第12回 『鉄道唱歌』(東海道編)
第11回 『赤い靴』
第10回 『靴が鳴る』
第9回 『紅葉』
第8回 『證城寺の狸囃子』
第7回 『かもめの水兵さん』
第6回 『箱根八里』
第5回 『赤い鳥小鳥』
第4回 『金太郎』
第3回 『荒城の月』
第2回 『春の小川』
第1回 童謡が消えていく
[ああわが心の東京修学旅行]
最終回 霞が関から新宿駅まで 〜霞が関から山の手をめぐって〜
第8回 大手町から桜田門まで 〜都心地域と首都東京〜
第7回 羽田から芝公園まで 〜城南工業地域と武蔵野台地を訪ねて〜
第6回 銀座から品川まで 〜都心地域と都市交通を訪ねて〜
第5回 日本橋から築地まで 〜下町商業地域並びに臨海地域を訪ねて〜
第4回 上野駅から両国橋まで 〜下町商業地域を訪ねて〜
第3回 神保町から上野公園まで 〜文教地域を訪ねて〜
第2回 新宿駅から九段まで 〜山手の住宅地域と商業地域を訪ねて〜
第1回 データで見る昭和35年
→ |