日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『我は海の子』です。
「我は海の子白浪の、さわぐいそべの松原に…」と歌っていると、ふと海に行きたくなってしまう『我は海の子』。文部省唱歌で本来7番まであるのですが、近年は3番までしか歌われなくなりました。作詞者は鹿児島市出身の宮原晃一郎*、作曲者は現在のところわかっていません。
『我は海の子』(『尋常小学読本唱歌』明治43年 に発表)
作詞 宮原晃一郎(みやはらこういちろう、1882−1945)
作曲 不詳
我は海の子白浪の
さわぐいそべの松原に、
煙たなびくとまやこそ
我がなつかしき住家なれ。
生れてしおに浴(ゆあみ)して
浪を子守の歌と聞き、
千里寄せくる海の気を
吸いてわらべとなりにけり。
高く鼻つくいその香(か)に
不断の花のかおりあり。
なぎさの松に吹く風を
いみじき楽(がく)と我は聞く。
丈余のろかい操りて
行手定めぬ浪まくら。
百尋千尋(ももひろちひろ)海の底
遊びなれたる庭ひろし。
幾年ここにきたえたる
鉄より堅きかいなあり。
吹く塩風に黒みたる
はだは赤銅さながらに。
浪にただよう氷山も
来らば来れ恐れんや。
海まき上ぐるたつまきも
起らば起れ驚かじ。
いで大船(おおぶね)を乗出して
我は拾わん海の富。
いで軍艦に乗組みて
我は護らん海の国。 |
明治41年、小樽新聞の記者だった宮原は文部省の新体詩懸賞募集に際して、幼時毎日のように通っていた鹿児島の天保山海岸をしのんでこの歌詞をつくり、『海の子』という題で応募、見事佳作に入選しました。その翌年、この詞は国語読本に掲載され、43年には『我は海の子』と改題されて、音楽の教科書に採用されました。ちなみに、宮原の家は歌詞にあるような「いそべの松原」にはなく、大久保利通ら明治維新を担った薩摩士族が暮らした加治屋町にありました。
さて、『我は海の子』の歌碑ですが、錦江湾に臨む鹿児島市の祇園之洲公園の南端に建てられています。碑の背後には桜島が雄大な姿を見せており、碑を眺めていると気宇壮大になってきます。近くには、ザビエル上陸記念碑や薩英戦争の砲台跡などもありますので、ご興味のある方は是非こちらもご覧になって下さい。
* 宮原晃一郎 明治15年、鹿児島市生まれ。本名、知久。北欧文学者、児童文学者。幼時に父の転勤に伴い札幌に移り、やがて小樽新聞記者となる。当時、札幌農学校で教師をしていた有島武郎と親交があった。後に上京し、大正7年に『薤露に代へて』を雑誌『中央公論』に発表し、出世作となる。以後、『赤い鳥』誌上に多くの童話を発表。また、独学で外国語を学び、北欧文学の翻訳紹介者として活躍した。昭和20年に死去。享年62。
[参考文献 |
團伊玖磨『好きな歌・嫌いな歌』文春文庫 昭和54年 |
日外アソシエーツ『20世紀日本人名事典 そ〜わ』紀伊国屋書店 平成16年] |
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場所:鹿児島県鹿児島市祇園之洲公園
交通:JR鹿児島駅より徒歩25分。または市内観光巡回バス「カゴシマシティビュー・ウォーターフロントコース」で「祇園之洲公園前」バス停下車、徒歩5分
2006年9月1日更新
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